「明日の血糖値、わかればいいのに—」
糖尿病と向き合う日々の中で、ふとそんなことを思ったことはありませんか?
食事をどうするか、運動はどれだけするべきか。
予測できない不安が、いつも心にのしかかっている。
まるで天気予報のない世界で、毎日傘を持ち歩いているような感覚です。
でも、もし「明日のあなたの血糖値」が予測できたら?
それも、かなりの精度で。
そんな未来が、いよいよ現実のものとなろうとしています。
AIがもたらす”予測”という新たな武器
2025 年6月、IBM とロシュ・ダイアグノスティックスが、糖尿病の血糖値予測にAI(人工知能)を活用した「Accu-Chek SmartGuide Predict」アプリを発表しました。
このAIは、患者の過去の血糖値、インスリン投与量、食事のタイミング、運動量など、日々のさまざまなデータを総合的に分析し、未来の血糖変動を予測してくれるというのです。
言い換えれば、これは「あなたの体の未来を先読みするAIアシスタント」。
しかも驚くべきことに、最長2時間先の血糖レベルをかなりの高精度で予測できるといいます。
3つの革新的な予測機能
このAIによる血糖予測は、ただ未来の数値を示すだけではありません。
具体的には、3つの画期的な機能を備えています。
「Glucose Predict(血糖予測)」機能では、今後2時間の血糖値の動向を視覚化し、事前にインスリン量を調整したり、軽い運動を加えるという判断ができます。
「Low Glucose Predict(低血糖予測)」機能は、危険な低血糖状態になる30分前にアラートを発し、早期の対処を可能にします。
そして最も心強いのが「Night Low Predict(夜間低血糖予測)」機能。
就寝前に一晩中の低血糖リスクを評価し、就寝前の補食が必要かどうかを教えてくれます。
つまり、これまで”後手”に回りがちだった対策を”先手”で打てるようになるのです。
病気と「共に生きる」から「前向きに選ぶ」生活へ
糖尿病という病気は、コントロールさえできれば怖くない—そうよく言われます。
しかし、実際にはその”コントロール”こそが難しく、世界で約5億 9000 万人(成人の9人に1人)の患者さんにとっては日々の大きなストレスの源でした。
AIによる血糖値予測は、その悩みを”見える化”し、自分の行動が未来にどうつながるかを理解するきっかけをくれます。
たとえるなら、真っ暗な道を歩くあなたに、先の道を照らすランタンを渡してくれるようなもの。
それがあれば、どこで曲がればいいのか、どこに落とし穴があるのか、前もってわかるのです。
医療とテクノロジーの”やさしい融合”
IBM のAI技術と、ロシュの糖尿病管理に関する深い知見が融合することで、単なるテクノロジーではなく「人のためのやさしいツール」が生まれつつあります。
さらに注目すべきは、両社が IBM の watsonx AI プラットフォームを活用して開発した研究支援ツールです。
これまで手作業で膨大な時間を要していた臨床研究データの分析を自動化し、血糖監視データと患者の日常活動との関連性を短時間で発見できるようになりました。
現在、このアプリはスイスでのみ利用可能ですが、近い将来、より広範囲での展開が期待されています。
医療が、患者の苦しみに”寄り添う存在”として進化していく—そんな未来を垣間見せてくれたニュースでした。
おわりに:血糖値を「予測できる安心」へ
病気と向き合うというのは、毎日の決断の連続です。
でも、もし未来の状態が少しでも予測できたなら、その決断はきっと少しだけ軽くなる。
そんな風に、AIはこれからの医療を「不安を和らげるもの」へと変えてくれるかもしれません。
「明日の自分がどうなるか」を知ることは、時に怖くもあります。
でもそれを「知ることができる」とき、人は初めて、自分の未来を選ぶ力を持てるのです。
—糖尿病との生活に、”選択肢”という光を。
AIの力が、そんな明日を照らし始めています。
参考:Diabetes management: IBM and Roche use AI to forecast blood sugar levels
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