AIは偶然に正しく動くわけではない。
信頼は”設計”してこそ育つものだ。
イントロ:スピードと安全、どちらを取りますか?
街を走る車が、最高速度だけを競い合い、ブレーキの整備を後回しにしていたらどうなるでしょう。
事故は避けられません。
いま世界は、AIというエンジンを搭載した車で、前例のないスピードで走っています。
しかしそのブレーキ――すなわちガバナンス――は十分に整っていません。
AI for Change 財団の創設者であり、テクノロジー倫理の第一人者である Suvianna Grecu 氏は、このままでは「大規模な自動化による被害」が現実になると警告します。
しかも、その被害は”偶発的”ではなく”設計不足”から必然的に起こるといいます。
技術より怖いのは「ルール不在」
Grecu 氏が危惧するのは、AIそのものの能力ではありません。
問題は、AIをどのように社会へ組み込むかの枠組みがないことです。
すでに強力なAIシステムが、採用判断、クレジットスコア、医療診断、司法判断など、人生を左右する領域で使われています。
しかし、多くは偏りの検証不足や長期的な影響の評価不足のまま運用されています。
企業の中には「倫理規定」を掲げるところもありますが、それが日常業務に根付いていないことがほとんどです。
Grecu 氏は「責任者が明確になったとき、初めて本当の説明責任が生まれる」と強調します。
抽象から実務へ――Grecu 流「倫理の埋め込み方」
AI for Change 財団が推奨するのは、理念ではなく手順です。
- 開発工程に倫理チェックリストを組み込む
- 導入前にリスクアセスメントを義務化
- 法務・技術・政策のクロスファンクショナル審査会を設置
こうして、倫理を「検討する議題」から「毎日の業務手順」に変えるのです。AIをコア事業と同じく、透明で再現可能なプロセスで管理します。
ガバナンスは”官か民か”ではなく”両方”
Grecu 氏は「ガバナンスを政府だけに任せても、企業だけに任せても失敗する」と断言します。
- 政府は最低限のルールや人権基準を設定する(”床”をつくる)
- 企業は規制を超えて、新しい監査ツールや安全策を生み出す(”天井”を押し上げる)
規制だけでは革新が鈍化し、企業任せでは悪用の危険が高まります。
協働モデルこそ持続可能な道だといいます。
見落とされがちな”感情操作”のリスク
Grecu氏 は短期的なリスクだけでなく、感情操作の危険性にも警鐘を鳴らします。
AIはますます人の感情に訴え、行動を誘導できるようになっていますが、これに対する備えはほぼありません。
そして、AIは中立ではない――これは Grecu 氏の信念です。
AIは与えられたデータ、目的、評価指標によって方向づけられます。
何もしなければ、効率や利益を優先し、正義や公平さは後回しになります。
ヨーロッパへの提言――価値の埋め込み
Grecu氏 は「ヨーロッパのAIは、人間のためであって市場のためだけではない」と語ります。
人権、透明性、持続可能性、包摂性、公平性――これらの価値を政策・設計・運用の全レイヤーに組み込むべきだと主張します。
これは進歩を止める話ではなく「形作られる前に、私たちが形作る」ための行動です。
まとめ:信頼は偶然ではなく”関係”の設計
AIを加速させるのは簡単です。
しかし、信頼は速度の副産物ではありません。
信頼は最短距離ではなく、最善の道を進むための加速装置。
Suvianna Grecu 氏のメッセージは明確です。倫理は後付けではなく、最初から組み込むこと。
ルールなき革新は必ず信頼を損なう――だからこそ、私たちは今すぐ「信頼の設計」を始めなければなりません。
参考:Suvianna Grecu, AI for Change: Without rules, AI risks ‘trust crisis’
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