あなたが撮った一枚の写真。
美しい風景、大切な思い出、あるいは心を込めて描いたイラスト。
その画像が、知らないうちにAIの”先生”として使われていたら—あなたは、どう感じるでしょうか?
これは、もはやSFの話ではありません。
2025年4月、私たちはそんな時代のただ中にいます。
そして今、Adobe(アドビ)が「AIが学習してもいい画像かどうか」を明示する、画期的な”目印”を提案しています。
なぜ今「画像の同意」が必要なのか?
生成AIの進化はめざましく、文章・音楽・画像などあらゆる表現が、AIの手によって次々と生み出されています。
その舞台裏では、膨大な数の画像データがAIの学習素材として使われており、その多くがインターネット上に公開されているコンテンツです。
しかし最近、こんな声が増えてきました。
「自分の作品が無断でAIに使われていた」
「私の顔写真が、見知らぬAIアバターのもとになっているかも?」
この問題は、まるで「図書館で借りたはずの本が勝手にコピーされ、誰かの教科書になっていた」ようなもの。
もちろん、誰でも知識を共有できることは素晴らしいことです。
でも、その知識が作者の知らないところで使われていたら?
そんな懸念に応えるために、Adobe が提案したのが—
画像に”意思表示”をつける「Adobe Content Authenticity App」
Adobe が開発を進めているのは「Adobe Content Authenticity App」という画像に「AI学習に使わないでほしい」という意思表示を添えるウェブツールです。
これは、ウェブサイトの「robots.txt(ロボッツ・テキスト)」のように、コンテンツがAIに使われるかどうかを指定できる”デジタルの目印”です。
このアプリでは、クリエイターが名前やソーシャルメディアアカウントなどの資格情報をファイルに添付できます。
一度に最大50枚の JPG または PNG ファイルに資格情報を添付することが可能です。
さらに、Adobe は LinkedIn と提携し、Microsoft 所有のプラットフォームの検証プログラムを活用しています。
たとえば、あなたが描いたイラストにこのメタデータを埋め込んでおけば—AIがその画像を読み込もうとしたときに「あ、この画像は学習に使っちゃダメだな」と判断できる仕組みです。
この技術は単なる”ラベル”にとどまりません。
デジタル指紋認証、オープンソースのウォーターマーク、暗号メタデータを組み合わせて画像の複数のピクセルにメタデータを組み込むよう設計されています。
これにより、画像が修正されてもメタデータは無傷のままとなります。
ただし現時点では、Adobe はまだAIモデル開発者との合意には至っておらず、主要なAI企業にこの標準を使用・尊重するよう交渉を進めている段階です。
「学ばせる自由」と「拒む権利」の間で
AIの進化を止めるべきか?それとも、誰かの権利を犠牲にしてでも、技術革新を優先すべきか?
この問いに明確な答えはありません。
ただひとつ言えるのは“同意”という仕組みがあれば、両者のバランスを取ることができるということ。
Adobe のように、Content Authenticity Initiative を主導する企業がこの問題に真剣に取り組んでいることは、私たち全員にとって明るい希望です。
なぜなら、それは「AIの未来」を、一部の人たちの手だけではなく、私たち一人ひとりの意志でつくっていけるというサインでもあるからです。
あなたの作品に、あなたの意思を。
これからの時代、写真を撮ること、絵を描くこと、デザインを作ることは、単なる「表現」ではなくなります。
それは、AIの未来に影響を与える行動にもなっていくのです。
だからこそ、今必要なのは「使っていいかどうか」を伝えるシンプルな方法。
Adobe の提案する新しいコンテンツ認証システムは、その第一歩となるかもしれません。
あなたが作るものには、あなたの物語があります。
そしてその物語には「どう使われたいか」を決める権利がある。
さらに、Adobe はこのツールを将来的に画像だけでなく、ビデオや音声にも対応させる予定だといいます。
これからは、そんな意思をテクノロジーの中にもしっかり刻みながら、創ることの喜びを、もっと自由に、もっと安心して楽しめる時代へ—。
参考:Adobe wants to create a robots.txt-styled indicator for images used in AI training
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