人工知能が、あなたの研究仲間になる未来を想像したことはありますか?
たとえば、夜遅くまで研究室に残っていたとします。
白衣のあなたの隣で、眠らずに静かに理論を検証し、新しい仮説を提案する存在がいたら──それが人間ではなく、AIだったとしたら。
そんな未来が、もはやSFではなく現実の射程に入りつつあります。
OpenAI の CEO、サム・アルトマンが 2025 年10月28日のライブストリームで行った発言が、世界中のテック業界と科学界に小さな衝撃を走らせました。
「2028 年までに、OpenAI は完全に自動化された”本物のAI研究者”を実現する」
この一言が意味するのは、AIが単なるツールではなく、人間と同じように”考え、発見し、問いを立てる”存在になるという未来です。
では一体、これはどういうことなのでしょうか?
AIが「研究者になる」とはどういう意味か?
私たちはこれまで、AIを”便利なアシスタント”として使ってきました。
文章を要約してくれたり、コードを補完してくれたり。
いわば、優秀な書記や計算係のような存在です。
でもアルトマンが語る未来は、AIが「科学的な問いを自ら立て、実験や検証を通して答えを導き出す」レベルに達するというものです。
OpenAI のチーフサイエンティストであるヤクブ・パホツキ氏は、この「AI研究者」を「より大規模な研究プロジェクトを自律的に遂行できるシステム」と定義しています。
これは、たとえるなら、AIが今の「電卓」から「ノーベル賞受賞者」に進化するようなものです。
サム・アルトマンが語るAI研究の未来とは?
アルトマン氏が行ったライブストリームで、彼は次のように語りました。
OpenAI は社内で、2026 年9月までに「インターンレベルの研究アシスタント」を、そして2028年までに完全に自動化された「本物のAI研究者」を実現する目標に向けて進んでいるというのです。
この発言には、2つの大きな意味があります。
- AIが”発見”をする時代が来る
- 人間とAIが協働する研究が加速する
彼らが想定しているのは、たとえばAIがまだ誰も思いつかなかった分子構造を提案したり、物理法則に新たな仮説を投げかけたりするような世界。
しかもそれが 2028 年、つまりたった3年後には実現可能かもしれないというのです。
「テストタイム計算」──AIの思考時間を劇的に延ばす
OpenAI がこの目標を達成するために賭けているのは、2つの重要な戦略です。
- 継続的なアルゴリズムの革新
- 「テストタイム計算」の劇的な拡大
「テストタイム計算」とは、AIモデルが問題について考える時間のこと。
現在のモデルは約5時間の時間軸で作業でき、国際数学オリンピックのような競技で人間のトップパフォーマーに匹敵する成績を収めています。
パホツキ氏によれば、この時間軸は急速に拡大していくといいます。
主要な科学的ブレークスルーのためには、データセンター全体の計算能力を一つの問題に投入する価値があると述べています。
研究現場はどう変わるのか?
もしAIが「同僚の研究者」として加わるようになったら、科学の進め方は大きく変わります。
- 研究のスピードは、今の何十倍にも加速するかもしれません。
- 専門外の研究分野でも、AIが架け橋となって知識の統合が進むでしょう。
- 誰もが”高度な研究”に参加できる民主化が進む可能性もあります。
OpenAI によれば、これらの目標は、科学研究を進展させ、AIが人間の研究者よりも速く発見を行い、現在の人間の能力を超える複雑な問題に取り組み、医学、物理学、技術開発など複数の分野で技術革新を劇的に加速させる可能性があるとしています。
たとえば、これまで高額な機材や長年の訓練が必要だった分野でも、AIが補助することで、学生や個人研究者が革新的な発見をするチャンスが広がるのです。
「AIに何を学ばせるか」が未来を決める
アルトマン氏は同時に、このAIの進化を支えるのは、人間の「問い」と「フィードバック」だとも強調しています。
つまり、AIが優秀な研究者になるためには、私たち人間が良い質問を投げかけ、良い方向へ導いてあげる必要があるということ。
興味深いことに、この発表と同じ日に、OpenAI は非営利団体から公益法人への組織再編を完了しました。
新しい構造では、科学の進歩に焦点を当てた非営利の OpenAI 財団が営利部門の 26% を所有し、研究の方向性を管理します。
また、この非営利財団は病気の治癒にAIを使用するための 250 億ドルのコミットメントを持っています。
アルトマン氏は、この再編成が責任あるAI開発へのコミットメントを維持しながら、AI研究アシスタントの野心的なタイムラインをサポートする枠組みを作ると述べています。
AIは魔法ではありません。方向性を間違えれば、誤った仮説や倫理的な問題を生む可能性もあるのです。
だからこそ今、私たちに問われているのは:
「どんな未来をAIと一緒に創りたいのか?」
という根本的な問いなのかもしれません。
超知能への道のり
パホツキ氏はさらに踏み込んだ予測も語っています。
「ディープラーニングシステムが超知能に到達するまで10年未満である可能性がある」
超知能とは、多数の重要な行動において人間よりも賢いシステムを指します。
この壮大なビジョンを実現するため、OpenAI は今後数年間で30ギガワットのインフラに投資することを約束しており、これは 1.4 兆ドルという巨額の財務的コミットメントとなります。
最後に:科学と想像力の交差点で
この記事を読みながら、きっとあなたも少しだけ未来にワクワクしたのではないでしょうか。
AIが「研究者になる」という話は、遠い未来の物語ではなく、もうすぐそこまで来ている現実です。
でもその未来をどんな形にするかは、私たち一人ひとりの選択と想像力にかかっています。
科学とは、いつだって”まだ見ぬ可能性”を信じることから始まりました。
そして今、その探究の旅にAIという仲間が加わろうとしています。
2028 年──その時、あなたは何を研究しているでしょうか?
そして、隣にはどんなAIがいるのでしょうか?
参考:Sam Altman says OpenAI will have a ‘legitimate AI researcher’ by 2028
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