「あのカフェ、なぜいつも混んでるの?」
そんな素朴な疑問を抱いたことはありませんか?
朝の通勤ラッシュやお昼どきのレストランの混雑、夕方になると人であふれるショッピングモール。
私たちが毎日目にする「都市の風景」は、よくよく見てみると、たくさんの人がそれぞれの都合と感情に従って行動している結果の集まりです。
その複雑な”人の動き”を、AIがリアルに再現できたらどうでしょう。
たとえば「天気がいいから散歩に出かける人」「残業明けで疲れて帰る人」「初デートのために駅前で待ち合わせる人」……。
それぞれが自分の意思と気分をもって動いているのだとしたら、それをデータだけではなく「物語のように」理解できるシステムがあったなら──。
そんな未来を目指して開発されたのが「CitySim(シティシム)」です。
CitySim とは何か?―仮想都市で”生きている”AIたちの物語
CitySim は、最新の人工知能技術を活用して、都市の中で暮らす人々の行動をまるごと仮想空間に再現するプロジェクトです。
この中で動いているのは、単なるコンピュータ上の人形ではありません。
彼らは一人ひとりが自分の考えや好み、記憶、欲求、そして人生の目標までも持った「AI市民」なのです。
このAIたちは、私たち人間と同じように、朝目覚め、会社や学校に行き、時にはカフェでくつろぎ、友人と語らい、考え、悩み、明日の予定を立てていきます。
しかも、これらの行動は「大規模言語モデル(LLM)」と呼ばれる先進的なAIの力によって、一つひとつ意味のある選択として行われているのです。
LLM とは、ChatGPT のように人間の言葉を理解し、自然な会話や推論、計画ができるAIのこと。
CitySim ではこの技術を使って、まるで本物の人間のように振る舞う「仮想市民」が数百から数千人規模で同時に生活しています。
従来との違いは「心を持つAI」であること
以前の都市シミュレーションでは、人々の行動はあらかじめ決められたルールに従って動くものでした。
たとえば「朝7時に出勤」「昼は決まった時間に食事」といった、機械的なスケジュールが中心で、どこか人間味に欠けていたのです。
しかし CitySim では、エージェント(AI市民)が自分自身の性格や気分をもとに行動を選びます。
たとえば、人見知りな高校生は放課後すぐ家に帰るかもしれませんし、好奇心旺盛な若者はカフェ巡りをしてその感想を”記憶”に残します。
その記憶は、次の行動に活かされていきます。
さらに驚くべきは、彼らが自分の人生の「目標」を持っていることです。
もっと人と仲良くなりたい、スキルアップしたい、お金を貯めたい──そんな思いが行動ににじみ出て、変化し続けるのです。
つまり、CitySim に登場するAIたちは「今、何をしたいか」だけでなく「これからどう生きていきたいか」までを自分で考えているのです。
実際に何が起こっているのか? CitySim の中の一日
たとえば、ある30代の会社員エージェントを想像してみましょう。
彼女は朝7時に起床し、少し疲れが残る体を引きずって出勤します。
電車が混んでいて少しストレスを感じつつも、午前中は仕事に集中。
お昼には静かなカフェを探して、そこで過ごした時間を「落ち着いた雰囲気だった」と記憶します。
午後は会議に追われ、夕方には「疲労」がたまり始めます。
それでも「最近友達に会ってないな」と思い出し、夜には久しぶりに連絡を取って飲みに出かける──。
こうした一つひとつの判断や行動の裏には、エージェント自身の感情、記憶、目標、そして今の状態が影響しています。
つまり、仮想空間の中で”心を持って暮らす”小さな人々が、リアルな都市を再現しているのです。
CitySim がもたらす未来:都市計画と社会デザインの新たな道具
CitySim の技術は、単なる研究では終わりません。
実際に活用されれば、さまざまな分野で人々の生活をより良くする手助けができると考えられています。
たとえば、都市開発では「新しい駅をつくると人の流れはどう変わるか」「どの通りに店を出せば人気になるか」といったシミュレーションができます。
災害時の避難行動、イベント時の混雑、感染症の広がりなど、リアルなデータでは把握しにくい”もしも”のシナリオにも対応できるのです。
また最近では、住民の「幸福度(ウェルビーイング)」をどう高めるかという視点も重要になってきました。
CitySim は、エージェントたちがどんな日常を送り、どんな時に満足やストレスを感じているのかを可視化できるため、人にやさしい都市づくりを支えるツールにもなるのです。
おわりに ― AIとともに「街を考える」時代へ
私たちが暮らす都市には、目に見えないたくさんの”心の動き”があふれています。
その中で、AIが人のように考え、動き、悩み、そして成長していく。
CitySim は、そんな新しい「都市の物語」を描くためのキャンバスなのかもしれません。
この取り組みは、単に技術を進化させるだけではなく「人を理解しようとするAI」が、人の暮らしに寄り添おうとしている証だと感じます。
もしかすると、これからの都市づくりでは「この街はAIと一緒にデザインしたんです」と言える日が来るかもしれません。
参考:CitySim: Modeling Urban Behaviors and City Dynamics with Large-Scale LLM-Driven Agent Simulation
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