ある日、あなたが町の図書館に足を運んだとしましょう。
そこには、膨大な本を瞬時に読み解き、必要な情報だけを的確に教えてくれる「スーパーレファレンス司書」がいるとしたら、どう思いますか?
――「こんな人がいれば、仕事も勉強も何倍もはかどるのに!」
実は今、その「スーパーレファレンス司書」のような存在が、人工知能(AI)の世界に登場しようとしています。
そして、それを生み出したのが中国の通信大手「ファーウェイ(Huawei)」です。
ファーウェイの新兵器「Supernode 384」とは?
2025 年5月、深圳で開催された「Kunpeng Ascend Developer Conference」にて、ファーウェイは衝撃的な発表を行いました。
それが、今回話題の Supernode 384(CloudMatrix 384 実装版)です。
名前だけではピンとこないかもしれませんが、これはAIの「頭脳」ともいえるスーパーコンピュータ。
しかもただのスーパーコンピュータではなく、現在AI開発において圧倒的なシェアを誇るアメリカの「NVIDIA(エヌビディア)」に真っ向から挑むレベルの性能を持っています。
NVIDIA とは? なぜこれが重要なのか
AIの世界では、GPU(Graphics Processing Unit、グラフィックス処理装置)を活用することで、複雑な計算を一気に処理できます。
この GPU 市場をほぼ独占しているのが NVIDIA。
AI開発者たちは、NVIDIA の GPU なしではモデルの学習すらままならないほど依存しています。
ところが、アメリカ政府が NVIDIA の先端チップの中国への輸出を規制したことにより、中国国内のAI企業は開発に大きな制約を受けることになりました。
つまり、ファーウェイが「自前でAIスーパーコンピュータを作る」というのは、単なる技術革新ではなく「AI主権の奪還」ともいえる大きな意味を持つのです。
実力は本物か? Supernode 384 の驚異的なスペック
では実際に、Supernode 384 はどれほどの実力を持っているのでしょうか。
📊 主要スペック
- 384 基の昇騰(Ascend)910C AI プロセッサーを搭載
- 最大性能 300ペタFLOPS(1秒間に 300 兆回の演算)
- 48テラバイトの高帯域幅メモリを搭載
- 12基の計算キャビネットと4基のバスキャビネットで構成
これは、一般的なパソコンで処理するのに何週間もかかるAIモデルのトレーニングを、わずか数時間で終えてしまうレベル。
たとえるなら、家の前から月までの距離を「徒歩」ではなく「超音速ロケット」で行くような違いです。
実証されたベンチマーク性能
実際のベンチマークテストでは、Meta の LLaMA 3 において1カードあたり 132 トークン/秒を達成し、従来のクラスター型アーキテクチャの 2.5 倍の性能を実現。
さらに、Alibaba の Qwen や DeepSeek ファミリーのモデルでは、1カードあたり 600~750 トークン/秒という驚異的な性能を記録しています。
しかもこのシステム、オープンソースのAIソフトウェアや多様なフレームワークにも対応しており、開発者にとっても非常に扱いやすい仕様になっています。
「技術の自立」がもたらすインパクト
ここで重要なのは、ファーウェイがこの Supernode 384 を作ることで「誰かに頼らず、自分たちの力でAIを進化させられる」環境を整えたことです。
言い換えれば、これは技術的な「自立」です。
私たちが子どもの頃、自転車の補助輪を外して自力でこぎ出した瞬間のようなもの。
これができるようになると、自分の好きな道を、好きなスピードで走ることができます。
同じように、ファーウェイはこのAIスーパーコンピュータによって、自国のAI技術を自立させるだけでなく、世界の技術地図を塗り替える可能性を秘めているのです。
AI開発は「一極支配」から「多極共存」へ?
これまでAIの開発基盤は、事実上 NVIDIA が牛耳っていました。
まるで巨大な図書館のカギを NVIDIA が一手に握っていたかのように。
しかし、ファーウェイの Supernode 384 は、その図書館にもうひとつの「入り口」を作り出しました。
これにより、さまざまな国や企業がそれぞれの知見と資源を活かして、独自のAI開発を進められる時代が来るかもしれません。
実用化が進む現実
実際に、このシステムは安徽省、内モンゴル、貴州省の複数のデータセンターで既に運用が開始されており、実用性が証明されています。
競争の激化はイノベーションを加速させます。
NVIDIA だけに依存しない新しい技術の流れが生まれることで、私たちの生活も、より便利で豊かになっていくことでしょう。
まとめ:AIの未来は、一社のものではない
ファーウェイの Supernode 384 は、ただの高性能マシンではありません。
それは「誰もがAI技術にアクセスできる世界」への希望であり「テクノロジーの民主化」への一歩です。
これからAIの未来がどう変わっていくのか—それを決めるのは、NVIDIA でもファーウェイでもなく、私たち人間一人ひとりなのかもしれません。
「AIの時代において、本当の強さとは『独占』ではなく『共創』である」
そんなメッセージが、ファーウェイの挑戦から聞こえてくるようです。
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