はじまりは、ひとりの読者の”ちいさな気づき”から
ある日の夜。
ベッドの中でスマートフォンを手に取り、あなたは Web マンガを読み始めます。
ページをめくるたびに物語に引き込まれていき「この続き、気になるな」「次に何を読もうか」と、自然と新たな作品を探している自分に気づきます。
そんなとき、まるであなたの気持ちを見透かしたかのように、新しい作品を”おすすめ”してくれる存在がいたとしたら?
それが無機質な提案ではなく、親しい友人のようにそっと背中を押してくれるものだったら──あなたはきっと、心に小さな感動を覚えるでしょう。
実は、そんな”心に寄り添う”読書体験を Webtoon はすでに実現しています。
そして、その裏側には「LangGraph」というAI技術が存在しているのです。
多様な読者に、ひとりひとり違う”答え”を返すという難題
Webtoon は、世界中に数千万人の読者を抱える巨大な Web マンガプラットフォームです。
そこには、老若男女を問わず、実に多様なユーザーが集まっています。
好みも違えば、読む時間も読むスタイルも異なる──そんな一人ひとりに対して、均質な対応をしていては、どこか物足りなさを感じさせてしまうのは当然のことでしょう。
たとえば、社内のマーケティングチームが「この作品の主要キャラクターは?」と知りたい場合や、翻訳チームが「この作品のトーンやニュアンスは?」と気になった場合、それぞれの文脈に沿った回答を瞬時に提供することは、従来のシステムでは難しい課題でした。
そこで Webtoon が見出した突破口が「LangGraph」というAIプラットフォームと、それを活用した「Webtoon Comprehension AI(WCAI)」というシステムだったのです。
LangGraph がもたらす”文脈を理解するAI”の力
WCAI は、Vision-Language Models(VLMs)と LangGraph によるワークフローベースのAIエージェントを組み合わせたハイブリッドアーキテクチャを採用しています。
この仕組みにより、AIに”文脈を理解し、自然な応答を生み出す能力”を与えることが可能になりました。
従来のAIシステムでは、質問に対してあらかじめ用意された答えを提示するだけでした。
それはまるで辞書や FAQ の自動読み上げのようなもので、ユーザーが本当に知りたいことにはなかなかたどり着けないという問題がありました。
しかし WCAI は違います。
複数の情報を横断的に組み合わせて、その時々の”目的に最適な答え”を構築することができるのです。
このシステムは、主にマーケティング、翻訳、およびレコメンデーションの各チームに展開され、手動でのエピソード閲覧の必要性を、自然言語クエリによる即時のインサイト、要約、およびキャラクター主導のハイライトで置き換えています。
“個別処理”から”統合的理解”へ──Webtoon が描いた新たな業務効率化
Webtoon は、WCAI の導入によって、社内業務の進め方を根本から見直しました。
従来の「個々のタスクに対応する」という枠を超えて「作品を総合的に理解し、各部門の業務を効率化する体験そのもの」を設計したのです。
WCAI は次のような専門的なエージェントワークフローを備えています:
- キャラクター識別:
名前、役割、代表的な画像を識別することにより、各 Webtoon のキャラクターを抽出します。 - 話者識別:
セリフの吹き出しを分析し、VLM と高度なコンピュータビジョン技術を駆使してキャラクターに関連付けます。 - 物語抽出:
視覚的なシーンから主要なプロット、イベント、感情の動きをキャプチャし、構造化された要約を生成します。 - 専門知識の適用:
ユーザーの意図に基づいてビジネス固有のインサイトを生成します。
これにより、マーケティングチームはキャンペーンテーマに合った作品を発見したり、レコメンデーションチームは取り上げるべきシーンを抽出したりできるようになりました。
AIがもたらすのは”便利”だけでなく”業務変革”の体験
こうして生まれた Webtoon の新しいAIシステムは、単なる効率化や自動化の枠をはるかに超えています。
むしろ、そこにあるのは業務プロセスの根本的な変革に近いものです。
例えば、コンテンツチームは以前、ユーザーガイダンス用のキーワードを抽出するために、すべての新しい作品を手動で読む必要がありました。
WCAI を活用することでこのプロセスが自動化され、作業負荷が 70% 以上削減されました。
これにより、チームはより戦略的で創造的なコンテンツプロモーションタスクに集中できるようになったのです。
このようなテクノロジーの使い方は、単に情報を処理すること以上に”業務の質を高める”ことを目指したもの。
Webtoon の取り組みは、AIが”組織の創造性”を引き出す時代の先駆けだといえるでしょう。
おわりに──物語を届ける”見えない支援者”としてのAI
私たちが日々親しんでいる Web マンガ。
その裏側で静かに働いているAIの存在に、気づくことはあまりないかもしれません。
でも、次にお気に入りの作品を読むとき、その作品があなたの元に届くまでには、AIがそっと支えてくれていたかもしれないと想像してみてください。
AIというと、どこか冷たい印象を持たれがちですが、Webtoon と LangGraph の共演は、それがいかに”組織の創造性を高める体験”へと進化できるかを私たちに教えてくれます。
テクノロジーは、便利さを超えて、人と物語の距離を縮める”見えない支援者”として、これからますます活躍していくことでしょう。
参考:How Webtoon Entertainment built agentic workflows with LangGraph to scale story understanding
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