「あのとき、もし見つけられていたら…」
病気が進行してから「もっと早く気づけていれば」と後悔する──そんな声を、私たちは何度も耳にします。
特に乳がんのように、早期発見が生存率を大きく左右する病気では、見逃しは時に致命的です。
けれど、乳がん検診を受けていたのに、後から見つかる「インターバルがん(interval cancer)」があることをご存知でしょうか?
実は、乳がん検診の現場では「見えていたのに見つけられなかったがん」が、決して珍しくないのです。
検診で発見されるがんの 20〜30% は、振り返ってみると以前のマンモグラフィですでに見えていたにもかかわらず、その時点では見逃されていたものなのです。
そんな中、オランダで行われたある研究が注目を集めています。
人間の目だけではなく「AI(人工知能)」をもう一人の読影医として加えたら、どんな未来が待っているのか──その答えが、ここにありました。
人の目 × AI:ダブルチェックの新しいカタチ
オランダの大規模な乳がん検診プログラムにおいて、4万 2236 件のマンモグラフィ(乳房X線写真)を対象に、AIを「第2の読影医」として活用した実験が行われました。
使われたのは、深層学習を用いたAI「Transpara(トランスパラ)」というシステム。
AIが各画像をスコアリングし、がんの可能性がある画像をピックアップしていきます。
では実際、AIはどのような成果を出したのでしょうか?
人間より見つける、でも違う場所を見る
この研究で明らかになったこと。それは──
AIは、人間が見逃したがんを見つけることができる。
実際に、AIを人間と組み合わせて読影に使った場合、見つけられた乳がんの件数は 8.4% 増加。
これは決して小さな数字ではありません。
さらに驚くべきは、AIが見つけたがんの多くが「進行性」だったこと。
AIが発見したインターバルがんや将来のがんの 93.4% が浸潤性であり、放置していたら、より悪化して命に関わる可能性が高かったのです。
例えるならば、人間の読影医が懐中電灯で照らしてがんを探すのに対し、AIは赤外線カメラのように”熱を持つ異常”を見つける別の視点を持っている、そんな印象です。
AIの弱点と向き合う:見逃さない代わりに…
もちろん、AIは万能ではありません。
AIが検出したがんの中には、最終的に「がんではなかった」というケースも含まれており、その結果、再検査になる人の数(リコール率)は 2.9% から 5.0% に上昇しました。
これは「無駄な不安を生むのではないか」という懸念にもつながります。
ですが、この問題には解決策も提案されています。
それが「アービトレーション(再判定)」という仕組み。
AIと人間で意見が食い違ったときに、専門家が改めて判断する仕組みを取り入れれば、無用なリコールも抑えられる可能性があります。
早期発見が未来を変える
この研究が示したのは、AIが単なる補助ではなく「もう一人の読影医」として重要な役割を果たせるということです。
特に注目すべきは、乳房の濃度(乳腺密度)によるAIの性能差がほとんど見られなかったことです。
人間の読影医は乳腺密度が高い乳房でがんの発見が難しくなりますが、AIはそうした影響を受けにくい傾向がありました。
言い換えれば「誰かの目には映らなかった異変」を、AIが見つけてくれる可能性があるということ。
これは、がんを早く見つけるという点で、多くの命を救う可能性を秘めています。
おわりに:未来の乳がん検診へ
今回の研究は、ひとつの問いに対する明確な答えを示しました。
「AIは、乳がん検診に役立つのか?」
答えは「Yes」。
ただし、AIだけで全てを任せるのではなく「人間 × AI」のチームワークが、もっとも力を発揮するのです。
医療現場は日々進化しています。
私たち一人ひとりがその変化を知り、活用することが、未来の命を守る大きな一歩になるかもしれません。
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