夜、布団に入って目を閉じるとき、私たちはただ「休んでいる」と思っているかもしれません。
しかし、もしその眠りが未来の健康状態をこっそり教えてくれるものだとしたら。
そんな夢のような話が、いま現実になろうとしています。
一晩の眠りに隠された、1,000を超える病のヒント
「睡眠は健康のバロメーター」
よく聞く言葉ですが、その真意はこれまで”感覚的”に語られることが多かったのが実情です。
しかし、今回スタンフォード大学をはじめとする研究チームが開発したAIモデル「SleepFM」は、まさにこの言葉を”科学”として証明しました。
このモデルは、6万5千人以上、計58万5千時間分という膨大な睡眠データ(PSG:ポリソムノグラフィー)を学習しており、わずか一晩の睡眠記録から1,041種類もの病気について将来のリスクを評価することができます。
しかも、予測精度はかなり高く、死亡リスクや認知症、心筋梗塞、心不全などに対してC-Index(予測精度の指標)0.75以上を達成した疾患が130種類にのぼります。
特に死亡リスク(0.84)、認知症(0.85)、心筋梗塞(0.81)、心不全(0.80)などでは極めて高い精度を示しています。
PSG──「眠りの会話」を聴きとる技術
SleepFMのすごさを語るには、まず「PSG(ポリソムノグラフィー)」という技術を知っておく必要があります。
これは、脳波や心拍、呼吸、筋肉の動きなど、眠っている間の身体の反応を多角的に記録する検査法です。
まるで眠っているあなたと身体の各臓器が交わす”密やかな会話”を盗み聞きするようなものといえるでしょう。
この複雑で豊かなデータをどう扱うかが、これまでの課題でした。
SleepFMは、これをAIに「言語」として学習させ、睡眠の”潜在的特徴”を抽出する技術を開発しました。
その結果、病気の兆候がまだ現れていない段階でも、身体が発する小さな異変を捉えることができるのです。
AIは眠りから何を見ているのか?
では、SleepFMは眠っている私たちから何を読み取っているのでしょうか?
研究によれば、心臓や呼吸の乱れ、睡眠の浅さ、REM(急速眼球運動)睡眠の減少などが、認知症や心疾患、慢性腎臓病と関連していることが明らかになっています。
特に脳波(BAS)は、認知症やうつ病など精神神経疾患の予測に非常に有効で、心電図(ECG)は循環器系の病気を見抜くのに優れているとのことです。
つまり、私たちの身体は、眠っている間にも”未来の健康状態”について無意識に語っているのです。
SleepFMは、その小さな声を聞き逃さず、医学的に意味のあるサインとして翻訳してくれる存在だといえるでしょう。
未来の健康診断は「眠るだけ」?
特筆すべきは、この技術がすでに病院外でも応用可能な段階にあるという点です。
SleepFMは、異なる医療施設や時期(パンデミック後のデータなど)でも高い汎用性を示しており、今後はウェアラブルデバイスとの連携も期待されています。
もし、スマートウォッチや自宅の簡易睡眠モニターがSleepFMのようなAIモデルとつながったら?
それは「寝ているだけで、がんや認知症の兆候を早期に知る」未来の健康診断が実現するということです。
睡眠がくれる、もうひとつの贈り物
睡眠とは、ただの休息ではありません。
それは、身体が未来の自分にそっと語りかけている時間かもしれません。
SleepFMは、私たちが無意識に発している”健康のシグナル”をすくい上げ「今はまだ見えない病気の影」を照らしてくれます。
この研究が教えてくれたのは「眠ることの大切さ」ではなく「眠りが語る力」そのものです。
健康とは日々の積み重ね。
そう思っていた私たちに「一晩の眠りが、人生を変えるかもしれない」という新しい視点を与えてくれました。
眠ること、それ自体が未来への手紙になる。
そんな時代が、もうすぐそこに来ているのかもしれません。
参考:A multimodal sleep foundation model for disease prediction
コメント