「AIが、仮想空間だけでなく、現実世界でも活躍できたら──」
そんなSFのような夢が、ついに現実味を帯びてきました。
2025 年8月11日、NVIDIA は大きな一歩を踏み出しました。
SIGGRAPH 会議において、同社は新たなワールドAIモデルとロボティクス向けインフラを発表しました。
特に注目すべきは「Cosmos Reason」と名付けられた70億パラメータの”推論”ビジョン言語モデルで、物理AIアプリケーションやロボット向けに設計されています。
これにより、AIが物理世界をより深く理解し、ロボットや自動運転などの実用的な応用に一気に近づくことになります。
この記事では、NVIDIA の最新発表をもとに、AIと現実世界がどのようにつながろうとしているのかを、やさしく・丁寧に解説します。
AIが「世界を理解する」ってどういうこと?
私たち人間は、目の前のコップが落ちれば割れることを知っていますし、自転車に乗るにはバランスが必要だと理解しています。
こうした”常識”は、言葉にしなくても体験を通して自然と身につけてきたものです。
AIが現実世界で活躍するには、こうした物理的な「常識」や「文脈」を理解する必要があります。
これまでのAIは、大量のデータを分析するのは得意でも、現実の物理的な振る舞いを直感的に把握することは苦手でした。
そこで登場したのが「ワールドモデル」と呼ばれる新しい考え方です。
NVIDIA の「Cosmos」シリーズとは?
今回発表の中心となったのは「Cosmos Reason」です。
これは70億パラメータを持つ”推論”ビジョン言語モデルで、メモリと物理理解能力により、ロボットやAIエージェントが「推論」できるようになります。
このモデルの画期的な点は、エンボディードエージェント(物理的な身体を持つAI)が「次に何をすべきか」を推論するプランニングモデルとして機能することです。
単なる命令通りの動作ではなく「この先に障害物があるかもしれない」「この動作をすると倒れるかもしれない」といった”予測”と”計画”ができるようになります。
さらに、3Dシミュレーションシーンからの合成データ生成を加速する「Cosmos Transfer-2」や、処理速度に最適化された軽量版も同時に発表されました。
これらのモデルは、ロボットやAIエージェントの訓練用の合成テキスト、画像、動画データセットの作成に使用されます。
包括的なロボティクス・インフラの構築
今回の発表で Cosmos が注目を集める理由の一つは、NVIDIA が単なるモデルの発表にとどまらず、ロボティクス開発に必要な包括的なインフラを同時に提供していることです。
具体的には、センサーデータを使って現実世界を3Dでシミュレートするレンダリング技術を含む新しい「ニューラル再構成ライブラリ」を発表。
この技術は、人気の開発者プラットフォームである オープンソースシミュレータ「CARLA」にも統合されます。
ハードウェア面では、ロボティクス開発ワークロード用の統一アーキテクチャを提供する「Nvidia RTX Pro Blackwell Servers」と、クラウドベースの管理プラットフォーム「Nvidia DGX Cloud」も発表されました。
さらに「Omniverse」ソフトウェア開発キットのアップデートも含まれています。
これらの発表の背景には、NVIDIA がAIデータセンター向け GPU の次の大きな用途として、ロボティクス分野への更なる進出を目指していることがあります。
AIと人間の新しい協力関係へ
AIが現実世界を理解し、私たちの生活に寄り添うようになったとき、私たちの働き方や暮らし方はどう変わるのでしょうか?
たとえば、高齢者の介護をサポートするロボット。
工事現場で安全を見守るAI。農業で作物の状態を予測し、効率的な管理を助けるシステム。
これらはもう空想ではなく、NVIDIA の Cosmos のような技術によって、一歩ずつ現実のものとなろうとしています。
おわりに──AIが「感じる」未来へ
AIが現実世界の空気を読み、先を予測し、私たちのパートナーとして行動する未来。
その第一歩が、今回の NVIDIA の発表だったのかもしれません。
空を見上げて天気を予想するように、子どもの様子を見て体調を気遣うように──AIがそんな「感覚」に近づいていくことは、単なる技術革新を超えた、大きな社会の変化と言えるでしょう。
今後、Cosmos がどのように進化していくのか。
私たちの暮らしとどんなふうにつながっていくのか。
その旅路を、ぜひ一緒に見守っていきましょう。
参考:Nvidia unveils new Cosmos world models, infra for robotics and physical uses
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