「もう少しだけ頑張って」と願うすべての家族へ
NICU—新生児集中治療室。
そこには、まだ十分に育っていない体で懸命に生きようとする赤ちゃんと、その命を支える医療スタッフ、そして祈るように寄り添う家族の姿があります。
あなたの身近にも「早く生まれた赤ちゃんが NICU に入院している」と聞いたことはないでしょうか。
毎年、世界で約 1,500 万人の赤ちゃんが早産で生まれ、その多くが NICU に入ります。
そして、NICU でのケアが赤ちゃんの「その後の人生」に大きく影響を与えることは、あまり知られていません。
そんな NICU の現場に、今、人工知能(AI)が静かに革命を起こそうとしています。
NICU で求められる、もうひとつの「目」と「頭脳」
NICU では、一人の赤ちゃんに関して膨大なデータが日々記録されています。
心拍数、呼吸状態、血液検査の結果、医師の記録、画像検査……。
それらの情報をもとに、医療スタッフは一瞬ごとに判断を下さなければなりません。
しかし現実には「この子がいつ退院できるのか」「どんな後遺症が残る可能性があるのか」といった将来の見通しを立てるのは、非常に難しい課題です。
そこで登場するのがAIです。
AIはこれらのビッグデータを瞬時に解析し、医師が見落としてしまうかもしれないパターンを見つけ出し、未来を予測するヒントを与えてくれます。
まるで、何百人もの赤ちゃんのデータをすでに経験してきた”賢い助っ人”が、そばでそっとアドバイスをしてくれるような存在です。
AIで見えてきた「未来予測」のチャンス
2025 年に発表された国際的な論文では、2017 年から 2023 年3月までに発表された NICU におけるAI活用に関する24の研究が分析されました。
そこから見えてきたのは、AIには大きく4つの機会があるということです。
1. 医療画像診断の進化
網膜症などの病気を、画像データからAIが高精度に診断。
医師の判断を補い、見逃しを防ぎます。
2. データに基づいた予測と洞察
膨大なデータを解析し、退院時期、疾患の重症度、死亡リスクなど、将来を予測するための洞察を提供します。
3. リスク認識と病態理解の向上
個々の赤ちゃんのリスク要因を特定し、重症化の可能性をより正確に把握することで、より良い治療計画の立案を支援します。
4. 個別に最適化されたケアと介入
赤ちゃんの状態に合わせた個別化された治療計画やケア戦略をAIが提案し、各赤ちゃんの特定のニーズに合わせたサポートを実現します。
それでもAIには「課題」がある
AIが万能かと言えば、もちろんそんなことはありません。
この論文では、AI導入に立ちはだかる5つの「壁」も明らかにされています。
データの質と量
NICU のデータは不完全だったり、病院ごとにバラバラだったりします。
医師にとっての分かりにくさ
AIの出す答えの”理由”が分かりにくければ、現場では使われません。
他の病院で使えない?
ある病院ではうまくいっても、他では通用しない「汎用性」の問題があります。
診断のばらつき
同じ病気でも診断の仕方に差があり、AIの学習にも影響します。
倫理とルールの未整備
赤ちゃんのデータをどう使うか、プライバシーをどう守るかはまだ議論が必要です。
AIの未来は「人」とともにある
重要なのは、AIが「医師の代わり」ではなく、「医師の相棒」であるということです。
実際、最新の研究では「説明可能なAI」や「チームで開発するAI」「倫理を考慮したAI」といった方向性が進んでおり、単なる技術革新ではなく、現場で本当に役立つAIづくりが求められています。
「希望」のテクノロジーを、現実にするために
NICU でのAI活用は、まだ”未来の話”かもしれません。
しかし、その未来はすでに始まっています。
もしあなたの大切な人が NICU にいるなら、もしくは医療やAIの分野に興味があるなら—この分野がどう進化していくか、きっと目が離せなくなるはずです。
AIと人が手を取り合い、すべての赤ちゃんにとってよりよい未来をつくる。
その第一歩を、今、私たちは踏み出そうとしています。
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