「速さ」と「サステナビリティ」。
この2つは、かつては相容れないものとされていました。
スピードを追い求めるモータースポーツの世界と、地球環境を守ろうとするサステナブルな取り組み。
あなたも「レース=環境に悪い」というイメージを抱いているかもしれません。
けれど、そんな常識をひっくり返すような挑戦が、今まさに世界中で注目を集めています。
それが「Formula E(フォーミュラE)」の取り組みです。
そして、その裏側には、Google CloudのAIがあるのです。
モータースポーツの未来形、それがFormula E
Formula Eは、電気自動車(EV)による国際的なレーシングシリーズ。
F1に似たフォーマットながら、使う車はすべて電動。
エンジン音の代わりに静かなモーター音が響くレース会場では「速さ」と「静けさ」が共存する不思議な体験が広がります。
でもFormula Eの本当の魅力は、単なるスポーツではなく、持続可能な未来のための技術革新を促進する「走る実験室」だということ。
Formula Eは、スポーツ界で唯一、創設以来ネットゼロカーボン認証を受けている組織です。
そしてこの実験室に、Google CloudがAIの力で加わることになりました。
2025年1月に正式に技術的な基盤が確立され、Google Cloudは「プリンシパルパートナー」として、Formula Eのビジネスクリティカルな機能を支援しています。
データの海から、地球を救うヒントを見つけ出す
レースでは、1秒どころか0.001秒の差が勝敗を決める世界。
そこには、タイヤの温度、電池の残量、ブレーキの効き具合、風向きなど、膨大なセンサー情報がリアルタイムで飛び交っています。
この膨大なデータを、以前はすべて手作業や単純な自動化で処理していました。
しかし「ネットゼロ(二酸化炭素排出実質ゼロ)」という大きな目標を維持し続けるためには、もっと賢いやり方が必要でした。
Google CloudのAIと機械学習、特にGeminiモデルが加わったことで、大きな変化が起こりました。
Geminiモデルは、パフォーマンス分析、バックオフィスワークフロー、イベントロジスティクスなど、Formula Eのエコシステム全体に統合されています。
まず、世界選手権という複雑なロジスティクスの最適化が実現しました。
AIを活用したバックオフィスのモデリングと、レースおよびイベントのデジタルツインの作成により、サイト構築を仮想的にシミュレーションし、最適化することが可能になりました。
これにより、物理的な現地調査の必要性が最小限に抑えられ、重機の輸送も削減されています。
さらに、エネルギー使用の可視化も進んでいます。
サーキット内で使われる電力の種類や使用量をリアルタイムで追跡することで、カーボンフットプリントの計測精度が向上し、どこで、どれだけの排出があるのかを明確にし、正確な対策が可能になりました。
つまり、Formula Eはただ「カッコよく走る」のではなく「環境に優しく走る」ための方法を、AIの力で磨き上げているのです。
未来は、観客とともに創られる
おもしろいのは、Formula Eの取り組みが観客にも広がっているという点です。
レースの開催地では、地元の交通機関と連携して、観客が公共交通を使いやすいように工夫したり、再生可能エネルギーを使ったイベント運営を行ったりと、ファンも一緒にサステナブルなレースを支える仕組みが整っているのです。
これは、どこか「チームの一員になれる」ような感覚をもたらしますよね。
さらに、Formula Eは「ストラテジーエージェント」をライブ放送に統合しました。
このツールは、リアルタイムデータを処理して、視聴者にレース戦略やドライバーのパフォーマンスに関するカスタマイズされた洞察と予測を提供します。
数百万人の視聴者がこれらの洞察を活用し、複雑なレースのダイナミクスをリアルタイムで理解できるようになりました。
そして今後は、Google CloudのAIによって、観客の移動データや行動パターンを分析し、より効率的で快適な観戦体験を実現しつつ、環境負荷を最小化する工夫も進んでいく予定です。
AIと走るその先に、見える景色
Formula Eが目指すのは「ネットゼロ」をゴールとするだけのレースではありません。
彼らがつくろうとしているのは、環境とテクノロジー、そして人々の暮らしが調和した「未来社会の縮図」。
Google CloudのAIは、その設計図を描くためのペンのような存在です。
目に見えないデータの流れを、人間にとって意味ある「知恵」へと変換する。
そしてその知恵が、車を、街を、社会を動かしていく。
実際の成果も出ています。
Formula Eは最近、GoogleのAI StudioとGeminiモデルを活用して「Mountain Recharge」イニシアチブを実施しました。
エンジニアたちはこれらのモデルを使用して、GENBETAカーの山岳下降時の最適なルートをマッピングし、AIが特定のブレーキゾーンを識別・分析して、モナコサーキットの完全な1周を完走するのに十分なエネルギーを回生ブレーキで回収するために必要な計算を行いました。
それはまるで、風を読むことで帆を立てるようなもの。
私たちは、AIという風を受けて、新たな未来へと走り出しているのです。
「速さ」と「優しさ」が共存する時代へ
かつて「速さ」は、力の象徴でした。
けれどこれからの速さは「やさしさ」と一緒でなければ意味がないのかもしれません。
Formula EとGoogle Cloudの挑戦は、そんな「速く、そしてやさしく走る」未来の可能性を、私たちに教えてくれます。
Formula EのCEO、Jeff Doddsは次のように述べています。
「Google Cloudとのパートナーシップの拡大は、Formula Eとモータースポーツ全体にとって真のゲームチェンジャーです。私たちはすでにスポーツにおけるテクノロジーの限界を押し広げており、このプリンシパルパートナーシップは私たちのビジョンを確認するものです。Google CloudのAI機能の統合により、選手権と世界中の放送視聴者の両方にとって、リアルタイムのパフォーマンス最適化と戦略的意思決定の新たな次元が開かれます」
Google Cloud EMEA地域のプレジデント、Tara Bradyは次のように付け加えています。「Formula Eはイノベーションのハブであり、そこではミリ秒が成功を定義します。この拡大されたパートナーシップは、Google CloudのAIとデータ分析の力の証であり、私たちのテクノロジーが最も厳しいシナリオで競争上の優位性を提供できることを示しています」
環境を守るというと、どこか「我慢」や「制限」のイメージがつきまといがちですが、AIと一緒なら、それはむしろワクワクする未来づくりへの冒険になるのです。
あなたも、そんな冒険の一員になってみませんか?
参考:How Formula E uses Google Cloud AI to meet net zero targets
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