「観たいのに、観られない」現代人の小さな罪悪感
YouTube に保存したセミナー動画、3ヶ月経っても未再生。
Zoom の会議録画、見直そうと思ったのに開く気力が出ない。
そして、監視カメラの映像チェックで1時間費やした挙句、何も得られなかった—。
こうした「動画疲れ」に、心当たりはありませんか?
気になる情報はどんどん動画で共有されるけれど、時間は増えない。
これは個人だけでなく、企業やメディア、教育機関、医療現場など、あらゆる分野に広がる深刻な課題です。
でも、その”情報の海”に、頼れるナビゲーターが現れました。
映像のトレジャーハンター——AIスタートアップ「Memories.ai」の挑戦
2025 年7月、AI映像解析のスタートアップ「Memories.ai(メモリーズ・エーアイ)」が、800 万ドル(約12億円)のシード資金調達を完了したと発表しました。
この資金調達は Susa Ventures が主導し、Samsung Next も参加投資家として参加しています。
この企業の技術は、まさに次世代の「検索AI」。
テキスト検索ではたどり着けない、動画の”意味”そのものを理解し、ピンポイントで抽出してくれるのです。
2時間の会議動画から「価格交渉」に関する発言だけを抜き出したり、長時間の監視映像から「危険な行動パターン」を特定したり、マーケティング映像から「ブランド関連のトレンド」を分析したりすることが可能になります。
まるで、暗闇の海に沈んだ知識の宝石を、一瞬で探り当てるダイバーのような存在です。
これまで数千時間の動画をチェックするには、人手と時間が必要でした。
しかし Memories.ai のAIは、最大 1000 万時間の映像を処理することができるのです。
“動画の時代”に起こる、見えない問題とは?
現代は、あらゆる情報が「動画化」されています。
Zoom 会議やウェビナーの録画から始まり、オンライン講義や研修コンテンツ、SNS の短尺動画(YouTube Shorts、TikTokなど)、防犯カメラやドローン映像、さらにはインタビューやニュース映像のアーカイブまで、私たちの周りは映像であふれています。
映像は、視覚・聴覚を同時に使える情報メディアですが、検索性が極端に低いのが大きな弱点です。
欲しい部分を探すには、基本的に「目と耳で最後まで見るしかない」というアナログ作業がつきまといます。
この課題を根本から覆すのが「Memories.ai」が開発する動画AI解析エンジンなのです。
Samsung Next が見据える「検索の次」の世界
なぜ Samsung Next がこの分野に投資するのか?
それは、私たちの情報の入口が”映像”に移行しているという未来を見据えているからです。
Samsung Next のパートナー、サム・キャンベル氏は次のように語っています。
「Memories.ai の技術はオンデバイス処理が可能で、クラウドに動画データを保存する必要がありません。これにより、プライバシーを心配してセキュリティカメラの設置をためらっていた人々にとって、より良いセキュリティアプリケーションの実現が可能になります」
スマホやタブレットから日々生まれる膨大な動画、テレビやスマートデバイスが日常的に生成・消費する映像、そして若年層の情報収集手段がもはや検索ではなく「動画視聴」に変わっている現実。
この流れのなかで求められているのが“動画を理解し、使いこなすAI”です。
Memories.ai の技術はまさにそれを実現しようとしています。
動画は「観る」時代から「読む」そして「活かす」時代へ。
Samsung Next はそのパラダイムシフトを後押ししているのです。
映像を”読む”という、新しい知性のかたち
Memories.ai のAIは、ただの自動文字起こしではありません。
同社の技術スタックは3つの層で構成されており、まずノイズ除去と圧縮層で重要なデータのみを保存し、次にインデックス層で自然言語クエリによる検索を可能にしてセグメント化とタグ付けを実行、最後に集約層でインデックスからデータを要約してレポート作成を支援します。
こうした”非言語情報”までも読み解き、動画の深層にある「意味」を抽出することができるのです。
それはまるで、動画に潜む「ストーリーの芯」を言語化する翻訳者のような存在。
忙しくて時間がない私たちにとって、これは知識への新しい入り口を開くテクノロジーだと言えるでしょう。
創業者が描く未来のビジョン
同社の共同創業者 Dr. Shawn Shen 氏(元 Meta Reality Labs 研究科学者)は、このように語ります:
「Google、OpenAI、Meta などの大手AI企業は、エンドツーエンドモデルの開発に注力していますが、これらのモデルは 1〜2 時間を超える動画コンテキストの理解に限界があります。しかし、人間が視覚的記憶を使うとき、私たちは大量のデータコンテキストを精査します。この発想から、多時間にわたる動画をより良く理解するソリューションを構築したいと考えました」
将来的には「先週面接した人について教えて」といった質問に答えられるAIアシスタントや、スマートグラスを通じてユーザーの生活にコンテキストを提供する技術、さらにはヒューマノイドロボットの複雑なタスク訓練や自動運転車のルート記憶支援なども視野に入れています。
まとめ:動画に埋もれず、動画を使いこなす未来へ
私たちは今、かつてないほどの情報に囲まれています。
そのなかでも、動画コンテンツは圧倒的な情報量と引き換えに、理解しづらい媒体でもあります。
Memories.ai のようなAI技術は、その壁を取り払おうとしています。
動画の意味を理解し、必要な部分だけを素早く抽出し、活用する。
それは、知識に触れる「自由」を取り戻す技術なのかもしれません。
最後に一言
かつて、私たちは「本を読む」ことで世界を知りました。
今、動画の時代が訪れ「映像を読む」ことで未来を切り開こうとしています。
あなたは、次に見る動画を「読みたい」と思いますか?
そのとき、あなたのそばには、AIという最高の”読書ガイド”がいるかもしれません。
参考:Samsung backs a video AI startup that can analyze thousands of hours of footage
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