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15年後、人型ロボットは”車輪付き”に──MIT 研究者が予言する『ヒューマノイド崩壊』の未来

AI

「アンドロイドに夢見たあの日」の私たちへ

子どもの頃、テレビに映る未来のロボットに胸を躍らせた記憶はありませんか?
人のように話し、動き、感情までも理解する”アンドロイド”。
まるで親友のように寄り添ってくれる機械の存在は、まさに夢のような未来そのものでした。

2025 年の今、その夢が現実になりつつあるように見えます。
Tesla の Optimus、Figure の humanoid robot、そして他にも数多くのスタートアップが、人間そっくりのロボットを開発し「人と共に働く未来」を謳っています。
人型ロボット企業への投資額は数十億ドルに達し、Figure は最新の資金調達ラウンドで 390 億ドルという驚異的な評価額を獲得しました。

でも……。

「そのバブル、まもなく弾ける」──ロボット界の重鎮の警告

そんな楽観ムードに冷や水を浴びせるように、あるロボット工学者が大胆な発言をしました。

その人物とは、ロドニー・ブルックス(Rodney Brooks)
iRobot の共同創業者であり、MIT で数十年にわたりロボット工学の研究を率いてきた、まさにロボット工学の最前線を歩んできた第一人者です。

彼は新たに発表したエッセイで、Tesla や Figure のような企業が採用している「人間が作業する動画を見せてロボットに器用さを学ばせる」というアプローチを、こう一刀両断しました。

「これは純粋なファンタジー思考だ」

そして投資家たちには、こう警告します。
「人型ロボットスタートアップに数十億ドルを注ぎ込んでいるが、それは無駄遣いだ」と。

なぜ”人型”である必要があるのか?

ブルックスの主張の核心はこうです。

「人間に似ていることが、本当に最適解なのか?」

私たちの生活空間──例えば家庭や工場、病院など──は、基本的に人間が使いやすいように設計されています。
だからこそ「人型ロボットが最も適している」と考えるのは自然な流れです。

でもブルックスは、そこに“幻想”が潜んでいると指摘します。

人間の手の複雑さ

人間の手には約 17,000 個もの特殊な触覚受容体が詰まっています。
現在のロボットは、これに遠く及びません。
機械学習は音声認識や画像処理を変革しましたが、それは適切なデータを取得するための既存技術が数十年にわたって蓄積されていたからこそ。
「触覚データについては、そのような伝統がない」とブルックスは指摘します。

安全性の問題

フルサイズの直立歩行型ヒューマノイドロボットは、姿勢を保つために膨大なエネルギーを消費します。
転倒すれば危険です。
物理法則により、サイズが2倍になれば、有害なエネルギーは8倍になります。

ブルックスは予測します。
15年後、成功した「ヒューマノイド」ロボットは、実際には車輪、複数の腕、特殊なセンサーを持ち、人間の形を放棄しているだろうと。

彼はこう例えます。

「飛ぶために鳥のような羽ばたきが必要だと思っていたが、結局、飛行機というまったく別の方法で空を飛ぶようになったのと同じだ」

なるほど、と思わず唸る比喩です。
私たちは”人間に似ている”ということに価値を感じがちですが、それは必ずしも”効率的”や”現実的”とは限らないのです。

ロボットは「形」ではなく「中身」で進化する

ブルックスは、今日の数十億ドルの投資は、決して量産化できない高価な訓練実験に資金を提供しているだけだと確信しています。

すでにAI技術の進化によって、ロボットは「見る」「理解する」「判断する」といった能力を飛躍的に高めています。
今や形が人間であるかどうかより「何ができるか」の方が圧倒的に重要です。

たとえば、病院で使われる配膳ロボットや、Amazon の倉庫で働く物流ロボット。
どれも人間の形ではありませんが、役割に特化した形だからこそ、高い効率と信頼性を実現しているのです。

ブルックスが目指す未来は「人間に似せたロボット」ではなく「人間を助けるために最適化されたロボット」です。

バブルが崩壊しても、未来は終わらない

もちろん、今の”人型ロボットブーム”はすぐに終わるわけではありません。
むしろ、その熱気があるからこそ、資金が集まり、研究開発が加速しています。
Apptronik は Google の支援を受けて4億 5,000 万ドル近くを調達し、Figure は Microsoft と OpenAI の支援を受けています(ただし、OpenAI との提携は 2024 年2月から約1年で解消されました)。

ですが、私たちがその未来に過度な期待を抱きすぎないこと
そして、本当に意味のある技術革新とは何かを見極める目を持つことが、これからますます大切になってくるでしょう。

ブルックスは、期待を現実に引き戻す役割を果たしてきました。
昨年も TechCrunch との対談で、生成AIの約束がその能力を超えていることについて語っています。
実際、AI研究非営利団体 METR の調査では、優秀な開発者がAIツールを使用した場合、タスク完了に 19% 長い時間がかかったという結果が出ています(興味深いことに、開発者たちは自分が 20% 速くなったと感じていました)。

夢を見つづけるために、目を覚ます

夢を見るのは、悪いことではありません。
私たちが子どもの頃に思い描いたアンドロイドの姿は、今も心の中に生きています。

でも、その夢を現実にするためには、ときに冷静な目と、別の発想が必要なのです。

空を飛びたかった人類が、鳥ではなく飛行機を生んだように。
人を助けたい私たちは”人型”にとらわれない新しいロボットのかたちを、これから創っていくのかもしれません。

参考:Famed roboticist says humanoid robot bubble is doomed to burst

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