150 年以上の歴史を持つジーンズの老舗、リーバイ・ストラウス。
この伝統的なアパレル企業が今、大胆な変革に挑んでいます。
キーワードは「DTC ファースト」――店舗や卸売ではなく、消費者と直接つながるビジネスモデルへの転換です。
そしてその中核を担うのが、AI(人工知能)とクラウド技術なのです。
社員の味方となる「スーパーエージェント」
リーバイスのAI戦略の中心にあるのは、消費者向けのサービスではなく、従業員の生産性向上です。
同社が開発しているのは、Microsoft Teams に組み込まれた「スーパーエージェント」と呼ばれるAIシステム。
これは本社、店舗、倉庫など、あらゆる現場で働く従業員が使える統一インターフェースです。
従業員が質問を投げかけると、このスーパーエージェントが適切な専門AIエージェントに振り分けて回答を返します。
複数のアプリケーションを使い分ける必要がなく、一つの窓口ですべてが完結する仕組みです。
リーバイ・ストラウス社のチーフ・デジタル&テクノロジー・オフィサーであるジェイソン・ゴーワンス氏は、こう語っています。
「私たちはリーバイ・ストラウス社を、DTC ファーストでファンに夢中な小売業者へと作り変えています。すべてのやり取りをより速く、よりスマートに、よりパーソナルにするために。AIはその転換の中心にあり、イノベーションを加速し、従業員の創造性を高め、生産性を解放し、ファンが何度も戻ってきたくなるような、つながりのある記憶に残る体験を提供する手助けをしています」
開発現場でも活躍するAI
生産性向上の取り組みは、開発チームにも及んでいます。
リーバイスのエンジニアチームは、品質管理やリリース管理といった重要なプロジェクトでGitHub Copilot を活用しています。
また、社員には Microsoft Surface Copilot+ PC が配備され、特に Copilot キー機能により情報検索の時間が大幅に短縮されたというフィードバックが寄せられています。
これらのツールは、従業員がより創造的な仕事に集中できる環境を作り出しているのです。
クラウド基盤とセキュリティの強化
こうしたAI活用を支えるのが、強固なクラウド基盤です。
リーバイスは Microsoft Azure への移行を進め、自社のデータセンターからアプリケーションをクラウドに移行しました。
この作業には、Azure MigrateとGitHub Copilot が活用されています。
そして注目すべきは、セキュリティがAIフレームワークそのものに統合されていること。
リーバイスは Azure AI FoundryとSemantic Kernel を活用し、セキュリティエージェントとポリシーオーケストレーションを構築しています。
これにより、グローバルな事業展開においてもゼロトラストセキュリティモデルを維持しながら、AI主導の取り組みを拡大できるのです。
さらに、Microsoft Intune を使用することで、新しいデバイスの導入やアプリケーション展開が自動化され、IT部門の負担も軽減されています。
エコシステム全体でAIを活用する戦略
リーバイスの取り組みで特筆すべきは、個別のツールを導入するのではなく、エコシステム全体を統合的に活用している点です。
AIエージェント、開発者ツール、新しいハードウェアのすべてが、共通のクラウドプラットフォーム上で連携しています。
これは、断片的なデジタル化ではなく、ビジネスモデル全体の変革を見据えた戦略的アプローチです。
Microsoft のワールドワイド小売・消費財業界担当副社長であるキース・マーシエ氏は「リーバイ・ストラウスは、象徴的なブランドがクラウドとAI技術で自らを再発明できることを示している」と評価しています。
伝統企業が示す、変革のロードマップ
175 年近い歴史を持つリーバイスの挑戦は、他の企業にとっても重要な示唆を与えています。
AIの導入は、単なる技術の問題ではありません。
クラウド基盤の整備、セキュリティの強化、そして何より「なぜAIを使うのか」という明確なビジネス目標が必要です。
リーバイスの場合、その目標は「DTC ファーストへの転換」。
そのために、まず従業員の生産性を高め、内部のオペレーションを効率化する。
その土台の上に、消費者とのより深いつながりを構築していく――そんな戦略が見えてきます。
伝統的な企業でも、明確なビジョンと適切なテクノロジーの組み合わせがあれば、大胆な変革は可能なのです。
リーバイスのこの取り組みは、まさにその証明と言えるでしょう。
参考:How Levi Strauss is using AI for its DTC-first business model
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