あなたの問いに、SQL が「答える」ようになったら?
ある日の午後、業務で扱うデータベースを前に、あなたはふと考えます。
「このレビューの中で深刻な問題を指摘しているのはどれだろう?」
「この論文はどの研究分野に関係しているのか、ひと目でわかればいいのに…」
もし、そうした問いに対して、SQL に話しかけるだけで、まるで優秀なアシスタントのように必要な情報を探し出し、まとめてくれる仕組みがあったらどうでしょうか?
その夢のような世界を実現したのが、DuckDB の新拡張機能「FlockMTL」です。
FlockMTL とは?
自然言語と構造化データの架け橋になる存在
FlockMTL は、大規模言語モデル(LLM)と検索強化生成(RAG)を、DuckDB という軽量で高性能なデータベースに”深く統合”したオープンソースの拡張機能です。
簡単に言うと、FlockMTL を使うことで、SQL がまるで ChatGPT のようなAIの頭脳を持ち、データに対して「意味を理解する力」を手に入れます。
従来のように単なる数値や文字列だけを見るのではなく「これは結合アルゴリズムに関する論文か?」「このレビューはネガティブな内容か?」といった、曖昧で意味的な問いに対して、SQL が直接答えを出せるようになるのです。
なぜ、FlockMTL は革新的なのか
構造的な SQL に”意味理解”を注入
これまでは、こうした意味ベースの分析をしようとすると、検索エンジンやAIモデル、場合によっては複雑な Python コードを組み合わせる必要がありました。
FlockMTL は、その煩雑さを取り払い、SQL というひとつの言語だけで自然言語による検索・分類・要約といった高度な処理を実現します。
たとえば、研究論文のデータベースから「結合アルゴリズム」に関するものだけを抽出し、それぞれの要点を1文にまとめ、さらに研究タイプ(理論か実証か)を分類するといった処理を、わずか数行の SQL クエリで実行できるのです。
PROMPT と MODEL――SQL に新たな登場人物が加わった
FlockMTL では、従来の「TABLE」や「VIEW」に加えて、「PROMPT」と「MODEL」という新しいスキーマオブジェクトが登場します。
これにより、AIにどんな質問を投げかけるか(PROMPT)、どのAIモデルを使うか(MODEL)を、SQL の世界の中で定義し、管理することができます。
しかも、一度定義すれば再利用が可能で、変更があっても SQL 文をいじる必要はありません。
AIのバージョンを変えたり、プロンプトの表現を調整したりといった運用がとても柔軟になっています。
具体的な使い方は?
「AIを呼び出す SQL 関数」を使うだけ
FlockMTL では、llm_filter や llm_complete、llm_rerank などの関数が用意されており、これらを SQL の中で呼び出すだけでAIの推論結果を得ることができます。
たとえば「この論文が結合アルゴリズムに関連しているかどうか」を llm_filter で判定し、関連する論文だけを抽出。
そして llm_complete を使って要約し、さらに llm_complete_json を使えばキーワードや研究タイプを構造化された JSON 形式で抽出できます。
これらの関数は、1レコードずつの処理(スカラー関数)だけでなく、複数レコードをまとめて処理する集約関数にも対応しており「上位10件のレビューをAIに再評価させて並び替える」といった処理も可能です。
検索も、分類も、要約も
データに”意味”でアクセスする新しい方法
FlockMTL がすごいのは、ただAIを呼び出せるだけではありません。
全文検索(BM25)、ベクトル検索、そしてAIによる再ランキングまでを組み合わせた”ハイブリッド検索”が、SQL 一つでできるのです。
これにより、たとえば「循環的結合(cyclic join)に関する最重要な記述を探す」といった難しい要求にも、複数のアプローチを融合させた賢い検索が可能になります。
人間の意図に寄り添った検索が、SQL で実現できる時代が到来したのです。
初心者にもやさしい設計
難しいことは、FlockMTL がやってくれる
「でもAIって、導入が大変なんじゃ?」という声も聞こえてきそうですが、安心してください。
FlockMTL は、開発者に優しい仕組みが多数用意されています。
たとえば、API 呼び出しを自動でバッチ処理にまとめて高速化してくれる機能や、同じ問い合わせに対しては結果をキャッシュして再利用する最適化、さらにプロンプトの構成も自動で整えてくれる「メタプロンプト」など、まさに痒いところに手が届く設計になっています。
導入も簡単で、以下の2行を実行するだけで使い始めることができます。
sqlINSTALL flockmtl FROM community;
LOAD flockmtl;
SQL は、ただの問い合わせ言語ではなくなる
FlockMTL の登場は、SQL という言語の可能性を根底から変えました。
もはや、SQL は単なる構造化クエリ言語ではありません。
意味を解釈し、文章を要約し、判断を下す「知的な存在」へと進化し始めたのです。
この新しい世界は、技術者だけでなく、分析職や非エンジニアの人々にも開かれています。
SQL は「構造」を操作するだけのものではなく、問いを投げかけ、考えさせ、答えを引き出す、知的なパートナーになろうとしているのです。
未来の当たり前が、もう始まっている
FlockMTL が見せてくれるのは、ほんの少し先の未来です。
データベースに話しかけ、意味を理解させ、必要な答えを導き出す—そんな日常が、今まさに始まろうとしています。
この革新を、誰よりも早く体験してみませんか?
参考:Beyond Quacking: Deep Integration of Language Models and RAG into DuckDB
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