『効いているか分からない治療』はもう終わり。少量の血液が膵臓がん治療を変える理由

――膵臓がんと闘う人たちへ届けたい希望の技術

「効いているかどうか分からない治療を、あなたは続けられますか？」

ある患者さんが、こうつぶやきました。
膵臓がん。
それは静かに進行し、気づいたときには手遅れになっていることの多い病気。
治療が始まっても「本当に効いているのか」は分かりにくく、時間だけが過ぎていく。
――そんな”不安な闘い”を、私たちは変えられるかもしれません。

この記事では、最先端の研究から生まれた、少量の血液でがん治療の効果を見極める画期的な技術を、やさしく、具体的にご紹介します。

cfDNA（cell-free DNA）とは、細胞が死ぬときに血液中に放出される”断片的な DNA”のことです。
がん細胞も例外ではなく、その痕跡は血液の中に微かに残ります。

cfDNA を読み解くことは、まるで真夜中の森で、足跡だけを頼りに犯人を追う名探偵のようなもの。
直接姿は見えなくても「がんがそこにある」証拠を捉えることができるのです。

そしてこの”名探偵”の役割を果たすのが、今回の2つの解析法です。

これは「オーダーメイド型の追跡装置」です。
患者のがん細胞から特有の遺伝子変異を見つけ出し、それが血液中にどれだけ存在しているかを測る方法。
まるで、容疑者が残した”特注の指紋”を追うようなものです。

一方でこちらは「全方位型のレーダー探知機」。
がん細胞が壊れたときに残す”DNA の壊れ方のクセ”を全ゲノムから拾い上げます。
患者ごとの情報は不要で、誰にでも使える柔軟性が特長です。

この技術を使って、実際に患者の治療効果を分析した臨床試験が行われました。

たとえば WGMAF 法では、治療8週間後に”がんの痕跡”が少なかった患者は、平均して 319 日生存しました。
一方、多かった患者は 126 日でした。約 2.5 倍もの差が出たのです。

ARTEMIS-DELFI でも同様の傾向が見られ、治療後スコアが低い患者は、より長く生きることができました。

この”見えない差”を、血液から早期に見抜く――それがこの技術の強みです。

従来、がん治療の効果を見極めるには何ヶ月もかかりました。
しかし ARTEMIS-DELFI 法を使えば、たった2週間後の血液検査で「この治療が効かない」と判断できる可能性があります。

これは、無駄な治療に費やす時間や副作用の苦しみを減らし「次の一手」に早く進むための”命の分かれ道”を照らす光なのです。

WGMAF 法は個別性に優れた高精度の方法ですが、がん組織が必要なため適用には制限があります。

一方、ARTEMIS-DELFI 法は血液だけで判定が可能。
今後、より多くの患者に、この技術が広がることが期待されています。

「もう効いていないかもしれない治療を、ただ耐えるだけの日々」
――そんな状況が変わるとしたら、それは、患者と家族にとってどれほど大きな希望でしょうか。

少量の血液から聞こえる、がんの”ささやき”。
それに耳を澄まし、最善の道を選べる時代が、いま、始まっています。

“希望は、見えるものではなく、見ようとする意志から始まる”