血管の『石のような硬さ』をAIが見抜いて手術成功率を事前予告

「大切な家族が心臓の手術を受けることになったら、あなたは何を知りたいですか？」

成功率、リスク、治療の選択肢…考えるほどに不安は募ります。
特に「冠動脈石灰化（かんどうみゃくせっかいか）」と呼ばれる心臓の血管が硬くなる症状を持つ患者さんの治療は、簡単ではありません。
手術の成功率は下がり、合併症のリスクも高まります。

そんな中「AIが手術の成功率を予測してくれる」という、まるで未来のような研究が注目を集めています。
この記事では、2025 年に発表された最先端の研究をもとに「AIがどうやって心臓の手術を助けるのか？」をやさしく解説します。

なぜ心臓の血管が”石のように”硬くなると手術が難しいのか？

冠動脈とは、心臓に酸素や栄養を届ける大切な血管です。
しかし、年齢や生活習慣、糖尿病などが原因で、血管の内側に”石灰”のような物質がたまって硬くなることがあります。
これを「冠動脈石灰化」と呼びます。

特に「中等度から重度」の石灰化（MSCACと呼ばれます）があると、治療で使うカテーテルやバルーンが通りにくく、ステント（血管を広げる器具）がうまく入らないこともしばしば。
まるで、岩だらけの道に自転車で突っ込むようなもので、医師にとっても至難の業なのです。

北京の名門・阜外病院の研究チームは、2017〜2018 年にかけて 3,271 人の中等度～重度石灰化の患者さんのデータを使い、AI（機械学習）に「どんなケースが手術に成功しやすいか」を学習させました。

使用したのは「XGBoost」という、近年さまざまな業界で評価の高いAIアルゴリズム。
なんとこのAI、手術の成功率をほぼ 98％の精度で予測できるようになったのです。

特に重要とされたのは、以下の6つの血管の特徴でした：

これらの情報はすべて、通常の「冠動脈造影検査（CAG）」で取得できるもので、つまり手術前に”勝率”がある程度分かるということです。

研究では、特に注目された治療器具がありました。
それが「改良型バルーン（切開バルーンやスコアリングバルーン）」です。

通常のバルーンが柔らかい布団だとしたら、これらは”刃のついた圧縮器”のようなもの。
硬くなった血管にしっかりアプローチできるため、石灰化の強い患者さんにとっては頼れる相棒です。

AIの分析でも、これらのバルーンを使った症例では、成功率が明らかに高まっていることが分かりました。

この研究が示すのは、単なる「データの力」ではありません。
AIは、医師の目だけでは見落としがちなリスクや傾向を数値化し、次のような現場の意思決定を支援します：

人間とAIがチームとなり、1人ひとりに合わせた安全で精度の高い医療が提供される。
そんな未来が、すでに始まっているのです。

心臓の手術は、患者と家族にとって人生の岐路となる大きな決断です。

でも、もしもその決断に「AIの知恵」がそっと寄り添ってくれたなら。
迷いや不安が少しでも軽くなり「納得して前に進む」ための後押しになるのではないでしょうか。

この研究が示したのは、医師・AI・患者の三位一体で未来の医療を築くという希望の姿。

技術の進化が、命の可能性を広げています。
そしてその未来は、もうすぐ目の前にあるのです。