もしAIが、自分の頭の中で”世界を想像して動く”ようになったら──あなたはそれを、怖いと思いますか?
それとも、ワクワクしますか?
この問いはもう、空想ではありません。
Google DeepMind が発表した「Genie 3」は、まさにそんな”夢を見るAI”を実現しようとしています。
それは、AIが目にした現実から、自分でルールを学び、自分で未来を”描き出す”という、前人未踏の進化です。
この記事では、この革命的な技術を、できるだけやさしく、わかりやすく、そしてちょっぴりドラマチックにお届けします。
リアルタイムで世界を創る、Genie 3 とは?
Genie 3 をひとことで言えば「見る・考える・創り出す」力を備えた、初のリアルタイム汎用世界モデルです。
今までのAIは、たとえば「これは犬か猫か」を判断する”認識のプロ”でした。
でも Genie 3 は違います。
シンプルなテキストプロンプトだけで、720p 解像度、24フレーム/秒で数分間の3D環境を生成できるのです。
これまでの Genie 2 が 10〜20 秒程度だったのに比べ、大幅な進歩です。
しかも、写実的な世界から想像上の世界まで、あらゆるものを創り出せます。
まるで夢の中で世界を再現するかのように、AIが自分で物理法則を理解し、一貫した世界を維持し続けるのです。
ルールを教えなくても学ぶ──”自己学習する物理エンジン”のすごさ
この技術のカギを握るのが「World Model(世界モデル)」です。
驚くべきことに、Genie 3 にはハードコードされた物理エンジンは搭載されていません。
代わりに、人間の赤ちゃんが歩いたり、ぶつかったりしながら世界の仕組みを体で覚えていくように、Genie 3 も自分で物理法則を学習していきます。
モデルは自己回帰的に動作し、一度に一フレームずつ生成しながら、以前に生成したものを「記憶」して次に何が起こるかを決定します。
これにより、テーブルの端でゆらゆらするコップが落ちそうになったり、落下物を避けるべきだったりといった、物理的な一貫性を保てるのです。
これは、AIが「知っている」から「わかっている」へと進化する、大きな分岐点です。
Genie 3 は AGI への踏み石──”身体性を持つAI”の誕生
AGI(汎用人工知能)とは、囲碁が得意とか、絵が描けるといった”専門職”ではなく、人間のように何でも柔軟に考え、行動できるAIのこと。
DeepMind の研究者は、「身体性を持つエージェント」(embodied agents)の訓練こそが AGI への鍵だと考えています。
現実世界のシナリオをシミュレートすることで、AIエージェントは試行錯誤を通じて自ら学習できるようになります。
実際、DeepMind は汎用AIエージェント「SIMA」を Genie 3 で訓練し「明るい緑のゴミ圧縮機に近づく」「赤いフォークリフトまで歩く」といったタスクを成功させています。
そんな「想像する力」を持ったAIは、もはやツールではなく、想像の魔法使いです。
まだある限界──完璧ではない”夢の世界”
ただし、Genie 3 にも限界があります。
スキーヤーが山を滑り降りるデモでは、雪の動きがスキーヤーとの関係で現実的に表現されていませんでした。
また、複数の独立したエージェント間の複雑な相互作用をモデル化することは依然として困難です。
さらに、連続的な相互作用は数分間しかサポートできませんが、適切な訓練には数時間が必要です。
エージェントが取れる行動の範囲も限定的で、環境への介入は可能でも、必ずしもエージェント自身が実行するわけではありません。
私たちは、何を”想像”するべきか?
AIが想像する時代に入った今、問われているのは、私たち自身の”想像力”かもしれません。
「AIができることが増える=人間が不要になる」──そんな心配もよく聞きます。
でも、想像力はAIの真似できない領域です。少なくとも今のところは。
AIが未来を”予測”するなら、私たちは未来を”描く”存在でいなければならないのです。
最後に:新たな時代の幕開け
Genie 3 は、ただの新しいAIではありません。
それは、AIに「想像力」が芽生え始めたという、小さなけれど大きな一歩です。
DeepMind の研究者は、2016 年の AlphaGo がプロ棋士を驚かせた「Move 37」のような革新的瞬間を、身体性を持つエージェントでも実現したいと語っています。
「新たな時代の到来」を告げる、そんな瞬間が近づいているのかもしれません。
そして、その一歩はこう語りかけているようです。
「描くのは、AIではない。未来を創るのは、あなたです」と。
参考:DeepMind thinks its new Genie 3 world model presents a stepping stone toward AGI
コメント