――「素数の乱れに隠れたパターンを、AIで見つける」研究の驚き
数字の中に”法則”を見たことがありますか?
子どもの頃、数字の中に「きれいな並び」や「規則性」を見つけて、嬉しくなった経験はありませんか?
でも、そんな私たちの”法則好き”な目をくすぐるくせに、どうしてもつかめない存在がいました。
――それが「素数」です。
割り切れない、予測できない、不規則に現れる。
「数学界のランダム」とも呼ばれるこの存在は、長い間、研究者たちの興味と苛立ちを集めてきました。
ところが。
最近、AIの力を借りて、この”つかめない”素数の分布に、ある「傾向」が見えてきたというのです。
え? AIで数学を調べるって、どういうこと?
今回ご紹介する研究は、タイトルも刺激的です。
「Machine Learnability as a Measure of Order in Aperiodic Sequences(非周期列の秩序を、機械学習の学びやすさで測る)」
ざっくり言うと「素数の分布を、AIが”どれだけ覚えやすいか”で評価してみたら、数学的なパターンが見えてきた」 というお話。
研究者たちは、ウラムの螺旋という視覚化手法を使って、素数を白、その他の数を黒で塗った巨大な画像を作成。
それを、まるで古代地図の断片のように小さく切り分け、AI(U-Net)に学習させました。
このときAIは「画像の3割だけを見て、残りの白黒を推測する」というクイズ形式でトレーニングされました。
結果:素数は”覚えやすく”なっていた
驚くべきはその結果です。
AIがうまく予測できたのは、なんと「大きな数の領域」だったのです。
たとえば、500 万以下の数を学んだAIより、3億や5億あたりの数を学んだAIの方が、正確にパターンを再現していたのです。
つまり、私たちが「ごちゃごちゃでランダム」と思っていた素数の並びは、数字が大きくなるにつれて、むしろ”覚えやすく”・”予測しやすく”なっていた。
これはまるで、乱雑に見える星空の中に、少しずつ星座が見えてくるような感覚です。
一番面白いのは、AIが”間違えた”ところ
でも、もっと興味深いのはAIが「間違えた箇所」でした。
AIは、いくつかの合成数(素数ではない数)を、間違って”素数っぽい”と予測してしまいました。
しかしその間違いは、完全な失敗ではありません。
それらの合成数の多くが、実は「素数に近い性質(例えば半素数など)」を持っていたのです。
まるで、数学の地図において、見落とされがちな”未発見の街道”を指差しているかのよう。
「ここにも、なにかあるかもしれないよ?」と。
AIのまなざしが、数学の本質を映す?
この研究は、数学の未踏領域を、AIという”新しい目”でのぞき込んだ挑戦です。
たしかにAIは答えを出しません。
しかしその「学びやすさ」や「間違い方」から、数学に潜む構造の気配が浮かび上がってくる。
大げさかもしれませんが、まるで数学の奥底に息づく”規則のささやき”が、AIの耳には届いていたようにも思えるのです。
結びに:数式よりも、問いの形に感動する
素数の世界には、まだ答えのない問いがたくさん眠っています。
でも今回の研究が教えてくれるのは「その問いをどう見つめるか」で、見えてくるものが変わるということ。
AIの目を借りて、私たちはまた一歩、数学の本質に近づいたのかもしれません。
素数は無秩序か?
それとも、私たちが気づいていないだけか?
――そのヒントは、AIの”まなざし”の中に、あるのかもしれません。
参考:Machine Learnability as a Measure of Order in Aperiodic Sequences
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