ChatGPT のようなAIが、最近どんどん「賢く」なっているのを感じませんか?
ちょっと前まで曖昧だった数学の解答も、今ではかなりの精度で答えてくれる。
じゃあ、その裏でAIはどうやって勉強しているんでしょう?
実は、AIの「教え方」が大きく進化しているんです。
そして今、その教え方に革命を起こす仕組みとして注目されているのが──PACS(パックス)という新しいフレームワーク。
今回は「数学苦手でもOK!」という方に向けて、専門用語を極力使わずに、PACS がどうすごいのか、なぜ注目されているのかをストーリー仕立てでお届けします。
AIに「教える」ってどういうこと?
AIを育てる方法はいろいろありますが、近年注目されているのが「強化学習(Reinforcement Learning)」という方法です。
ざっくり言うと…
「これ正解! はい、ごほうび!」
「これはダメ! ごほうびなし!」
というやりとりを何度も繰り返して、AIに”何が良いか”を覚えさせていく学習方法。
とくに「正解・不正解」がハッキリしている数学やプログラミングの分野では、これがかなり有効。
でも、問題もあります。
ごほうびが”少なすぎる”問題
強化学習の悩みどころ、それは報酬(ごほうび)が1回きりだということ。
AIが1問の数学問題に対して、途中の考え方も含めて長文で答えを出したとしましょう。
でも評価されるのは「答えが合っていたかどうか」だけ。
たとえるなら…
テストで答案を出しても、点数だけ返されて、どこがどう間違っていたか教えてくれない。
そんな学び方で、本当に上達できるでしょうか?
PACS は「正解/不正解」そのものを学習データにする
そこで登場したのが、今回紹介する PACS というアプローチ。
PACS はこう考えました:
「正解か不正解かって、もうラベル(答え)みたいなものじゃない?」
「だったら、教師あり学習(supervised learning)として教えちゃえばいいよね!」
つまり「これは正解ですよ」「これは不正解です」とAIに教えることで、答えの良し悪しそのものを予測できるようにしていくんです。
これは、AIにとってはすごく親切な教え方。
なぜなら「ただ正解したかどうか」だけじゃなくて「どういう出力が良いのか・悪いのか」を学べるから。
さらにすごい:先生と採点係が一体になった学習
これまでのAIの学習では、
- Actor(先生):どう行動するかを学ぶ
- Critic(採点者):その行動がよかったかどうかを評価する
という2つの役割を別々に設定していました。
ところが PACS では、この先生と採点者が同一人物なんです。
つまり、自分で答えを出して、自分でそれを評価する。
これにより、無駄のない効率的な学びが実現します。
結果、PACSは大きな成果を出している
この PACS を使って、難易度の高い数学問題集(AIME や AMC など)で実験した結果は驚きです。
AIME 2024 での結果(Qwen2.5-7B モデル、pass@256):
- 従来の方法(PPO):正解率 46.46%
- 従来の方法(GRPO):正解率 45.42%
- PACS:正解率 59.78%
というように、圧倒的な差を見せつけています。
PPO より 13.32 ポイント、GRPO より 14.36 ポイントも高い正解率を達成しました。
さらに、PACS は出力の多様性や学習の安定性にも優れており「ただ正解する」だけでなく「より賢く、柔軟に学ぶ」力が備わっていることがわかっています。
PACS が教えてくれる、AIの”人間らしい学び方”
PACS の最大の魅力は「もっと人間に近い学び方」をAIに与えていることです。
私たちもそうですよね?
- いきなり点数だけよりも、どこがよかったか、何が間違っていたかを教えてもらえた方がうれしい。
- 一度に全部うまくやろうとするより、自分で考えて、自分でチェックする方が身につく。
そんな「丁寧で気づきのある学び」を、AIにも与えているのが PACS なのです。
まとめ:これからのAIには「どう教えるか」がますます重要に
AIがどれだけ賢くなるかは、「何を教えるか」ではなく「どう教えるか」がカギになる時代に入りました。
PACS は、その一つの答えを示してくれたアプローチです。
難しい数式や理論ではなく、やさしく、親切に、そして効率よくAIを導く方法。
これからAIがもっと人間のような”思考”を持つ存在になるために、PACS のような発想がどんどん必要とされるでしょう。
参考:Implicit Actor Critic Coupling via a Supervised Learning Framework for RLVR
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