「そんな小さな脳で、本当に解けるの?」
子どものころ、難しいパズルを前にして、何度も答えを消しては書き直したこと、ありませんか?
じっくり考え、少しずつ間違いに気づき、自分なりの答えにたどり着く—そんな経験は、記憶のどこかに残っているはずです。
今、その「人間らしい思考法」を、たった 700 万パラメータの小さなAIが実現し、なんと、ChatGPT のような巨大なモデルを凌駕する成果を出しはじめているのです。
その名も、Tiny Recursion Model(TRM)。
AIの世界に新しい風を吹き込む、まさに”小さな革命児”です。
大きい=賢い? そんな時代は、もう古い
これまでのAIの進化は「とにかく大きく、深く」が合言葉でした。
GPT-4、Gemini、Claude といった大規模モデルたちは、数百億〜数兆という桁違いのパラメータを持ち、まるで巨人のように成長してきました。
でも、こうしたモデルでさえ ARC-AGI という「人間には簡単でもAIには難しい問題集」では、思うように力を発揮できていないのです。
いくら大きくても、間違えたステップから先は全部ずれてしまう—。
そんな不安定さが、彼らの足を引っ張っていました。
TRM はどう違うのか?——「間違えても、考え直せる」AI
TRM が目指したのは、真逆のアプローチ。小さくても、何度も自分で考え直せるAIです。
1回で完璧な答えを出すのではなく「まず仮の答えを出し、少しずつ修正しながら完成させていく」。
まるで、何度もノートを見返しながら問題を解く中学生のようです。
この「再帰的推論(Recursive Reasoning)」の力で、TRM は次のような驚異の成績を叩き出しました。
まさに「小さな脳が、難問を打ち破る」瞬間です。
どうして TRM は強いの?
TRM の強さは、シンプルさと工夫にあります。
✅ たったひとつの2層ネットワークだけ
HRM(旧モデル)では2つの4層ネットワークを使っていましたが、TRM は1つの2層ネットワークだけで完結。
部品を減らすことで、理解しやすく、汎化もしやすいのです。
✅ 自分の答えを”考え直す”ことで改善
まるで「思考のリハーサル」のように、答えと内部の状態を何度も修正。
これによって、ミスがあっても次のステップで補正できるようになります。
✅ ムダな計算を減らす「早めのやめ時」機能
正解に近づいたら、それ以上は考えすぎない。
トレーニング時にはこの「判断力」も学ばせており、時間と資源を節約。
✅ 専門的な数学も、生物学の真似事も必要なし
TRM は難解な理論や「脳の模倣」に頼りません。
ただ「考えて、直して、また考える」—それだけです。
たとえば、難しい数独を解くとき……
TRM は、まず「ちょっと怪しい初期回答」を出します。
でも、そこで終わりではありません。
「この数字、前と矛盾してるな」
「ここは別の可能性もあるかも」
——と、自分の”考え”を何度も振り返りながら、答えを洗練させていくのです。
その姿は、もはや「大規模な記憶のかたまり」ではなく、思考を繰り返す”知性”に近いものがあります。
「Less is More」——AIにも当てはまる時代へ
TRM が教えてくれるのは「少ないからこそ、深く考えられる」という真実です。
- 何度も自分の間違いに気づけること
- 小さなヒントを見逃さないこと
- じっくり、確実に、問題に向き合うこと
これらは人間の学び方にも通じる知恵であり、TRM が私たちにそれを思い出させてくれます。
これからのAIは「巨人」ではなく「賢い職人」かもしれない
大きくなるだけが進化ではありません。
小さくても、丁寧に、確実に解く。
TRM が実現したのは、そんな“AIの職人芸”のような知性です。
今後、教育・医療・研究といった領域では「軽くて賢い」モデルが大きな力になるかもしれません。
TRM は、その第一歩。
私たちが目を向けるべき未来のAIは、思ったよりも「小さく、静かに」やってきているのです。
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