「ねえ、パパ。ロボットって、頭が大きいほうが賢いの?」
夕飯のあと、小学3年生の娘がふとつぶやきました。
私はちょっと考えてから、こう答えました。
「前はそう思われてたけど、最近は”頭が小さくてもすごく賢いロボット”が出てきたんだよ」
そんな”新しいロボット”—いや、AIの常識をひっくり返す小さなヒーローが、いま話題になっています。
「まさか、小さい方が強いなんて…」──AIの常識が変わった日
AIの世界では、これまで「大きい=すごい」というのが当たり前でした。
ChatGPT のような巨大なAIモデルは、数十億〜数千億のパラメータ(脳みそのようなもの)を持ち、その「大きさ」ゆえの性能が魅力でした。
しかし 2025 年、Samsung(サムスン)が投じた”小さな一石”が、業界に静かな衝撃を与えました。
なんと、たった 700 万(7M)パラメータしかない超小型AIモデルが、巨大AIを”推論力”で超えたというのです。これは主要な LLM の 0.01% 未満というサイズです。
これはまるで、
小柄な忍者が、巨大ロボットに知恵で勝った
ような衝撃。
強さは大きさじゃない—そんな漫画のような展開が、現実で起こったのです。
小さなAIの名前は?どんなふうに”賢い”の?
Samsung SAIL Montréal の研究者、Alexia Jolicoeur-Martineau が開発したこの小さなAIは、TRM(Tiny Recursive Model:小さな再帰モデル)と呼ばれています。
ポイントは「大量に何でも覚える」のではなく「何度も考え直して答えを洗練させる」ことに全振りした設計にあるのです。
たとえば、巨大AIは百科事典を丸ごと暗記した秀才のようなもの。
でも時々混乱してしまいます。
一方、Samsung の TRM は、限られた情報で何度も考え直し、自分の間違いを修正できる謎解き名人のようなイメージです。
この TRM の最大の特徴は、再帰的な思考プロセスにあります。
最大16回まで自分の答えを見直し、改善することができるのです。
しかも、たった2層というシンプルなネットワーク構造が、かえって汎化性能を高めています。
複雑すぎないからこそ、本質を見抜く力が育つというわけです。
試験の結果は? 大手AIたちとの”頭脳バトル”の勝者は…
この超小型AIは、高度なベンチマークで驚異的な成果を叩き出しました。
特に注目すべきは、真の流動的知能を測定する難関テスト「ARC-AGI」での結果です。
TRM は ARC-AGI-1 で 44.6%、ARC-AGI-2 で 7.8% の精度を達成しました。
これは、Google の最新モデル Gemini 2.5 Pro の 4.9% を大きく上回るという衝撃的な数字です。
また、わずか 1,000 の訓練例しか使わない Sudoku-Extreme では 87.4% の精度を記録し、30×30 という巨大な迷路を解く Maze-Hard では 85.3% の精度を達成しています。
特に ARC-AGI での成果は衝撃的です。
主要な LLM の 0.01% 未満のサイズで、世界最大級のAIモデルを超える性能を示したのです。
つまり、この TRM は「知識より知恵」「サイズより思考の深さ」に重きを置いた次世代型だと言えるのです。
「これからのAI」は、どこに向かうのか?
この Samsung の挑戦が意味するのは、単なる技術革新ではありません。
スマートフォンや IoT 機器にも、高度なAIが搭載できるようになります。
計算資源が少なくて済むということは、環境負荷の大幅な削減にもつながります。
そして、より持続可能なAI社会への一歩になるのです。
そう、これは“みんなの手に届くAI”の始まりなのです。
かつては選ばれた企業だけが使えた強力なAIが、あなたの手の中へ。
まるで、かつて大型コンピュータだったPCが、家庭の机の上にやってきたように—。
小さな頭脳が、静かに世界を動かしはじめた
AIの世界に「小さいけれど、賢い存在」が登場した。
それは、単なるスペックの話ではなく、新しい価値観の始まりを意味しています。
「知恵のある小さな存在は、力のある大きな存在を超えられる」
子どもに絵本で語るようなこの真実が、いま最先端のテクノロジーで実証されたのです。
そしてふと、先日の娘との会話を思い出しました。
「頭の大きさより、どう使うかの方が大事だよ」
そう話したときの彼女の顔には、ちょっと誇らしげな笑みが浮かんでいました。
「AI=大きい」が終わる日。これからは”小さくて深く考えるAI”の時代へ
Samsung の超小型AIモデル「TRM」は、わずか 700 万パラメータで巨大 LLM を推論力で超えました。
何度も考え直す「再帰的思考」によって、限られた資源でも高度な問題解決が可能になったのです。
持続可能でエネルギー効率の高いAIが、私たちの手元にやってくる未来は、もうすぐそこまで来ています。
「大きければ正しい」「強ければ勝つ」—そんな固定観念が崩れた今、私たちが本当に注目すべきは“深く考える力”なのかもしれません。
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