「あなたの街の役所、申請してから何日かかりますか?」
多くの人が、一度はこんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。
「書類を出したのに連絡が来ない」
「たらい回しにされた」
「手続きに丸一日かかった」
でも、そんな常識を覆す国があります。
中東の未来都市・ドバイです。
なんと、AIによって政府の手続きが数か月以内で展開される時代が、そこではすでに始まっているのです。
「スピード展開」は夢じゃない──ドバイ政府がAIで挑む大改革
2025 年4月、ドバイはAIレポートを発表し、100 以上の高影響なAI活用事例を公開しました。
ドバイの政府では、すでに 96% 以上の政府機関が少なくとも1つのAIソリューションを導入しています。
このプロジェクトを率いるのは、デジタル・ドバイ政府機関(Digital Dubai Government Establishment)。
その CEO であるマタール・アル・ヘメイリ氏が語るのは、ただの「デジタル化」ではありません。
「ドバイのモデルは、AIの倫理性、相互運用性、説明可能性を、スケーラブルなガバナンスの枠組みに組み込むことです」
そんな理念を持つ試みが、次々と実行に移されています。
AIの力でスピードと精度が激変
ドバイ政府が導入した DubaiAI は、180 以上の公共サービスに関する情報を提供するAIアシスタントです。
このシステムは政府への日常的な問い合わせの 60% を処理し、運営コストを 35% 削減しています。
市民からの問い合わせ対応だけでなく、公共サービス全体の最適化にも貢献しているのです。
中でも注目されているのが、展開のスピード。
ドバイでは、AIイニシアチブが発表されてから、パイロットから本格展開まで数か月で完了します。
これは、世界標準よりもはるかに速いペースです。
しかも驚くべきは、スピードだけではありません。
2025 年には、調査対象ユーザーの 60% がAI対応サービスを好むという結果が出ています。
市民の信頼を得ながら、確実に前進しているのです。
自動化は雇用を奪わない──再配置される人材
「自動化によって、私たちの労働力は反復的で情報提供的な業務から解放されます」とアル・ヘメイリ氏は語ります。
「従業員は再教育を受け、AIの監督、サービス設計、戦略的政策業務といった、より高付加価値な役割に再配置されています」
つまり、AIは人間の仕事を奪うのではなく、人間をより創造的で意義のある仕事へと導いているのです。
ドバイの人口増加によって政府サービスへの需要が急増する中、AI主導の効率化は競争優位性であると同時に、運営上の必然性となっています。
「効率化」だけでは終わらない、AI活用の本当の目的
ドバイのAI化は単なる「早い・便利」だけを追求しているわけではありません。
アル・ヘメイリ氏はこう語っています。
「私たちの競争優位性は、ドバイが倫理を運用に移す速さにあります。AI政策は理論的な枠組みではありません。政府全体のあらゆるAI展開に適用される、拘束力のある原則と技術要件のセットです」
ドバイは 2019 年に倫理的AIツールキットを導入し、調達から性能評価まで倫理的コンプライアンスを組み込んでいます。
これにより、透明性の高い行政判断と説明可能性を実現し、公務員の負担を軽減しながら業務を高度化しています。
そして何より、市民が主役になれる参加型の行政を目指しているのです。
つまり、AIは市民と政府をつなぐ「架け橋」なのです。
医療、エネルギー、予測サービス──見えない場所での成果
DubaiAI が注目を集める一方で、アル・ヘメイリ氏は別の成果にも言及しています。
医療分野では、AIモデルが糖尿病などの慢性疾患を早期段階で検出しています。
予測アルゴリズムはドバイ保健局内の監査システムも改善しています。
エネルギーインフラでは、リアルタイムAI予測ツールを活用したスマートグリッドが消費を最適化し、環境負荷を削減しています。
そして最も野心的なプロジェクトが、現在開発中の予測型公共サービスプラットフォームです。
統合データとAIを使って市民のニーズを予測し、自動ライセンス更新から予防医療通知まで提供する計画です。
「このプロジェクトの構築作業はすでに始まっており、2030 年代初頭の本格展開を目指しています」とアル・ヘメイリ氏は明かしました。
このビジョンの要素は、すでにAI対応の都市計画ツールや、政策の結果を実装前にシミュレートする都市全体のデジタルツインを通じてテストされています。
では、日本や他国はどうするべき?
日本を含む多くの国でも、行政のデジタル化は進んでいますが、ドバイほど「スピード感」と「倫理的枠組みの実装」がある国はまだ少ないのが現状です。
ドバイの事例から学べることは多いはずです。
まず「AIで何を効率化するか」ではなく「AIで何を信頼できる社会にするか」を考えることです。
次に、市民と行政の距離を縮める手段として、AIを「道具」ではなく「仲間」として使うこと。
そして、スピードだけでなく、倫理的監視を同時に組み込むことです。
未来の政府は、技術だけでなく”思想”から変えていく必要があるのです。
おわりに:未来の行政は「待たせない、迷わせない、裏切らない」
私たちがこれから迎える社会では、AIは単なる効率化ツールではなく、信頼と安心を支える土台になっていくでしょう。
「役所に行くのがストレス」なんて時代は、もしかするともうすぐ終わるかもしれません。
アル・ヘメイリ氏が語る「5年後の成功」とは、こういうものです。
「AI搭載の公共サービスがシームレスで、予測的で、包括的であり、市民と住民の生活を楽にし、自然に世界中の他の政府によって複製される青写真となること」
そんな温かさをAIが持ち始めたとき、私たちは本当に「便利」な社会ではなく「優しい」社会を手に入れるのかもしれません。
参考:Exclusive: Dubai’s Digital Government chief says speed trumps spending in AI efficiency race
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