「AIって、計算が得意なんじゃないの?」と思ったあなたへ
あなたはこんな経験、ありませんか?
「AIなら計算もバッチリ!」と思って数式を聞いたら、返ってきた答えがなぜか間違っていた。
実はこれ、意外とよくある話です。
特に、大きな数字を扱ったり、複雑な式を解かせたりすると、AIは案外あっさりとミスをしてしまいます。
なぜこんなことが起こるのでしょう?
そして、それを解決する方法はあるのでしょうか?
その答えが、今回紹介する「PoT(Program of Thoughts)」というアプローチにあります。
「PoT」って何? AIが”考え”をコードで書く時代へ
従来、AIが数の問題を解く時には「Chain of Thought(思考の連鎖)」、通称CoTという方法がよく使われてきました。
これは、AIに「考えながら答えを出してね」とお願いするような方法で、答えまでの道筋(理由づけ)を文章で説明させます。
例えば「今日、あなたはリンゴを5個買いました。明日もう3個買ったら、全部で何個になりますか?」という質問に対して、AIはこう答えます。
「まず5個のリンゴがあります。そこに3個追加されるので、5 + 3 = 8。よって答えは8個です。」
一見、いい感じですよね?
でも、ここで問題が複雑になったらどうでしょう?
たとえば「50回繰り返して計算する」とか「3次方程式を解く」となると、CoTは一気に弱点を露呈します。
理由は簡単で、AIは”自然な言葉での説明”は得意でも”正確な計算”はあまり得意ではないからなんです。
「PoT」の登場 考えはAI、計算はプログラムに任せよう
ここで登場するのが、今回の主役「PoT(Program of Thoughts)」です。
PoTでは、AIに自然な文章ではなく、Pythonのプログラムとして”考え”を表現させるのです。
そして、計算そのものはプログラムに任せるという、役割分担のような形を取ります。
言い換えると、AIは論理や手順をプログラムとして表現する「考える役」を担当し、Pythonインタープリタが実際の計算や処理を実行する「計算する役」を担当するという仕組みです。
この仕組み、実はとても強力です。
たとえば「50回繰り返して合計を求める」ような問題も、AIがわざわざ50行の説明をしなくても、こう書けばOKです。
python
total = 0
for i in range(1, 51):
total += i
ans = totalプログラムなら一瞬ですね。
これをAIが自分で書いて実行して答えを出す、それがPoTの世界です。
実験結果から見るPoTの実力
PoTの効果は数字にも現れています。
研究では、小学校から高校レベルの数学問題(GSM8K、AQuA、SVAMP、TabMWP、MultiArithなど)や金融関連の質問応答データセット(FinQA、ConvFinQA、TATQAなど)でテストが行われました。
そして驚くべきことに、PoTは従来のCoTよりも、数学問題では平均で約8%、金融データセットでは平均で約15%精度が向上したという結果が出ています。
ゼロショット設定(事前の例示なし)では、数学問題で平均約12%の向上が見られました。
特にPoTは、反復処理(ループ)を含む問題、連立方程式や多項式方程式などの複雑な数式、記号的な操作(変数の置き換えなど)といった領域で大きく力を発揮しました。
研究によると「線形方程式・多項式方程式」「反復処理」「記号的操作」「組み合わせ」といったカテゴリーで最も大きな改善が見られています。
逆に「単純な足し算・引き算」などの問題では、CoTと大きな差はありません。
比喩で理解 CoTは”手計算”、PoTは”電卓を使う”
この違いを例えるなら、CoTは数式を紙に書いて、自分で電卓を使わずに全部計算する人のようなもの。
一方PoTは、考えるのは自分で、計算は電卓に任せる人のようなものです。
どちらも賢いのですが、計算ミスをしにくいのはPoTですし、複雑な問題に強いのもPoTです。
読者のあなたへ この技術は何を変える?
PoTは単なる技術のアップデートではありません。
私たちがAIに対して抱いていた「なんでも一人でこなす万能選手」という期待を見直し「得意なところはAI、苦手なところは外部ツール」という”チームワーク型AI”の可能性を示しています。
これからAIと一緒に仕事をする時代において、数字の裏付けが必要な分析、資料作成での計算支援、会話ベースの金融業務など、PoTのような考え方が、AIの”頼れる相棒”としての信頼性を高めていくはずです。
まとめ AIに「考えさせる」新時代の扉を開けよう
「AIに考えさせる」と聞くと、少し難しく聞こえるかもしれません。
でもPoTは、私たちがふだん自然にやっている「考える→電卓を叩く→答えを出す」という流れを、AIにもそのままやらせる、ただそれだけの話です。
しかしその”ただそれだけ”が、AIの能力を一段引き上げ、人間との信頼あるパートナーシップを築くきっかけになるのです。
AIはあなたのライバルではなく、チームメイトになりつつあります。
そして、その「考える力」を支えるのが、PoTなのです。
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