朝、Slackを開いたらAIが書いた新規プレゼン資料が投げ込まれていた。
「すごい! もう仕事いらないじゃん」と思ったのも束の間、どこか何かがしっくりこない。
問いはさらっと出てくるのに、近づいて見ると、理解も表面的で、データに込めた思いや意図が見えてこない。
スマートで有能なアシスタントみたいだけど、一人に任せっきりにはできない。
これは今、たくさんのマーケティング代理店で起こっている現実です。
AIツールの導入と現場のギャップ
WPPとStability AIが共催したウェビナーによると、マーケティング業界ではAIがもはや「イノベーションラボ」の実験段階を超え、ブリーフ作成、制作パイプライン、承認プロセス、メディア最適化など、日常業務に組み込まれています。
しかし、AIを日々の業務に取り入れるには、単なるツールの追加ではなく、業務フロー全体の再設計が必要です。
AIは、仕組みを一瞬で整えてくれる便利なツールに見えますが、実際は違います。
広告文を書き、画像を作り、組み合わせるのはスピードを上げますが、それを「企業として使いこなす」のは、全く別のスキルの話です。
「とりあえずAIを使ってみよう」と経営層から指示が出ても、現場は「どう使えばいいのか分からない」。
ここにギャップが生まれ、放置すればするほど、ストレスやムダが積もります。
ブランドの一貫性を実現する仕組み
WPPとStability AIは、既製のAIモデルでは「ブランド固有のビジュアルアイデンティティが学習されていない」ため、出力が汎用的になりがちだと指摘しています。
その解決策として、ブランド特有のデータセットでモデルをファインチューニングすることで、スタイル、外観、色彩などのブランドガイドラインをAIに学習させ、一貫性のある成果物を繰り返し生成できるようにしています。
イギリスの小売業者Argosの事例では、ファインチューニングしたモデルがキャラクターだけでなく、ブランド特有の3Dアニメーションで使用される照明や微妙な影の表現まで再現できるようになりました。
これらの細部の再現こそが、従来は再レンダリングや複数回の承認作業として時間を消費していた部分です。
AIの出力が最初から「完成形に近い」状態であれば、チームは修正作業ではなく、ストーリーの構築や各チャネルへの最適化により多くの時間を割けるようになります。
制作サイクルの劇的な短縮
WPPとStability AIによると、従来の3D制作は文化的な瞬間に素早く反応するには遅すぎました。
Argosの事例では、2体の3Dキャラクターの外観や動作をカスタムモデルに学習させることで、「従来は数か月かかっていた高品質な画像を数分で生成」できるようになりました。
このワークフローの高速化は、制作のボトルネックを取り除くのではなく、移動させます。
バリエーション生成が高速化すると、レビュー、コンプライアンス、権利管理、配信といったプロセスが新たな制約となります。
これらの課題は以前から存在していましたが、AIの速度と効率性が、可能性と既存システムの限界との差を明らかにしました。
AIで日常業務を変革したい代理店は、単にツールを追加するのではなく、AI中心にワークフロー全体を再設計する必要があります。
使いやすいインターフェースの重要性
WPPとStability AIは「UIの問題」を指摘しています。クリエイティブチームは「バラバラで複雑で分かりにくい」インターフェースに時間を奪われ、ツール間でのアセット移動や回避策に追われています。
その対応として、ブランド特有のフロントエンドと複雑なバックエンドワークフローを構築する必要があります。
WPPは「WPP Open」というプラットフォームを展開し、WPP独自の知識を「グローバルにアクセス可能なAIエージェント」としてエンコードし、企画、制作、メディア創出、販売をサポートしています。
業務効率の向上は、ブリーフから制作へ、アセットから実行へ、パフォーマンス指標から企画へという、ツール間のよりスムーズな連携によって実現されます。
組織の思考パターンを変える
一部の先進企業は、この問題に向き合い、組織の思考パターンそのものを変えることで、本当の意味でAIを味方にしています。
その道は簡単ではありません。
でもそれは、ツールを使うのではなく「手の使い方を学び直す」ことに等しいのです。
ガバナンスも、単なる方針から実際のワークフローに組み込まれる必要があります。
電通は「ウォールドガーデン」と呼ばれるセキュアなデジタル空間を構築し、従業員がAI対応ソリューションを安全にプロトタイプ化・開発し、最良のアイデアを商業化できるようにしています。
企業成長の本質
企業の成長は、最新ツールやアプリではなく、それらを活かす組織の力にかかっています。
AIがどんなに進化しても、実際にそれを使うのは人です。
これらの事例を通じて見えてくるのは、マーケティング専門職への影響が、役割のバランスの再調整と職務内容の変化であるということです。
機械的な下書き、リサイズ、バージョン作成に費やす時間が減り、ブランド管理により多くの時間を割けるようになります。
同時に、モデルトレーナー、ワークフローデザイナー、AIガバナンスリードといった新しい業務上の役割も拡大しています。
AIが最大の業務効果を発揮するのは、代理店がカスタマイズされたモデル、特にクライアントが使いやすいフロントエンド、そして企画、制作、実行を結びつける統合プラットフォームを活用する場合です。
目に見える利点はスピードと規模ですが、より深い変化は、マーケティングの実行がソフトウェア対応のサプライチェーンに似てきているということです。
標準化され、必要な部分で柔軟性を持ち、測定可能なものへと変わりつつあります。
さあ、あなたの企業は、未来をどう作るつもりですか?
参考:Marketing agencies using AI in workflows serve more clients
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