「最近、なんだか声に張りがない気がする」
そう気づいたのは、父が定年退職してしばらく経ったころのことでした。
口数も減り、声がどこか硬くて単調になったように感じました。
年齢のせいかもしれないと思いつつも、どこかひっかかるものがあったのです。
後にわかったのは、それが「肝臓のSOS」だったということ。
今回は、こうした”声の異変”が、実は深刻な病気の兆候である可能性を、最新のAI研究がどのように明らかにしたのかをご紹介します。
肝臓の不調が「声」に現れる?意外なつながり
肝性脳症(HE)という病気をご存じでしょうか?
これは、肝臓の働きが低下し、体内にたまった有害物質が脳に影響を及ぼすことで、思考や運動に異常が出る状態です。
重症になると、意識障害や昏睡にまで至ることもあります。
しかし、もっと厄介なのは、その前段階にあたる「潜在性肝性脳症(covert HE)」です。
本人も周囲も気づきにくく、自覚症状もほとんどないため、見逃されやすいのです。
けれど、放っておくと病状が進行し、命に関わるケースも。
この”見えない病”を、どうやって早期に見つけるか。
そこに注目したのが、ある国際研究チームでした。
声の出し方に潜むヒントを、AIがキャッチ
研究チームは、従来の時間がかかる心理検査に代わる、もっとシンプルな診断方法を探していました。
そこで目をつけたのが「音声」です。
患者が「あー」や「えー」といった母音を出す5秒間の録音データだけで、病気の兆候をAIが判別できるかを検証したのです。
このAIには、近年注目を集めている「XGBoost(エックスジーブースト)」という機械学習モデルが使われました。
結果はというと、識別精度は81.2%(AUROC値)という、非常に有望な数字を記録。
医師の目でも見逃しがちな「潜在性肝性脳症」を、かなり高い確率で判別できたのです。
「声の特徴」が教えてくれた、病気のサインとは?
では、AIは何を手がかりにしていたのでしょうか?
音声を細かく解析したところ、潜在性肝性脳症のある人には、以下のような特徴が共通していたことがわかりました。
声の大きさが一定で変化しにくく、声の質が少し硬く、ザラザラしている傾向があります。
また、静かに話すのが苦手で、逆に大きな声を出すのも苦手という特徴が見られました。
つまり、感情や場面に応じて「声の強弱」を自然に変えるのが難しくなるのです。
これは、脳と身体の微妙な連携に支障が出ている証拠かもしれません。
AIは、こうした微細なズレを正確に検知することができたのです。
「あー」と言うだけで病気がわかる未来へ
この研究が画期的なのは、診断にかかる時間がわずか15秒程度の音声録音で済む点です。
スマートフォンのアプリでも実現できるほどシンプル。
従来のような専門的な機器や心理検査を必要とせず、病院に行く前の”気づき”をサポートできる可能性があります。
さらに、患者にとっても負担が少なく、検査へのハードルが下がります。
声は、あなたの”健康ログ”かもしれない
「自分の声が、病気のサインになるなんて」
最初はそう思われるかもしれません。
でも、日常でふとした変化を感じたとき、たとえば「声に力がない」「話し方が変わった気がする」と思ったら、それは身体が発しているメッセージかもしれません。
この研究はまだ”証明の第一歩”にすぎませんが、今後さらに多くの人を対象に検証が進めば、病気の早期発見につながるツールとして広く活用される未来も、そう遠くないでしょう。
最後にひとこと:あなたの声に、耳を傾けてみませんか?
人は、自分の健康の変化に気づくのが意外と難しいものです。
けれど「声」という身近な手がかりが、実は大きなヒントになっているかもしれません。
誰かの何気ない「最近、声が違うね」というひと言が、あなたの未来を守るきっかけになることだってあるのです。
声は、あなたの心と体の”鏡”です。
今日、少しだけ耳をすませてみませんか?
参考:Prospective evaluation of speech as a digital biomarker for covert hepatic encephalopathy
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