朝、コーヒーカップを手に取り損ねて、中身をこぼしてしまったことはありませんか?
目には入っていたはずなのに、なぜか「分かっていなかった」。
そんな小さな違和感を、私たちは時々、日常の中で経験します。
これは人間だけの話ではありません。
目に入るものすべてを高精度で”見て”いるはずのロボットたちも、同じように”分かっていない”まま動いていることがあるのです。
そんなロボットたちに、新しい「理解の力」を与える技術が発表されました。
ノルウェー発のロボティクス企業1X(ワンエックス)が開発した、次世代AIモデル、World Model(ワールドモデル)です。
これは、ロボットが”世界を見るだけでなく、理解する”ための脳となるモデルです。
そしてこれは、単なる技術革新にとどまらず、私たちとロボットの関係そのものを大きく変える第一歩になるかもしれません。
「見える」ことと「わかる」ことは、まったく違う
今や多くのロボットが、カメラとセンサーを使って環境を”見る”ことができます。
でも、そこに映るのが「テーブルの上のグラス」だと認識しても、それが空か満杯か、倒したら何が起こるか、人間はそれを大事にしているのか、といった文脈までは理解できていないのが実情です。
言ってみれば、視覚はあるけれども「常識のない子ども」のような状態。
1XのWorld Modelは、この”常識”の部分をロボットに教えようとしているのです。
ロボットに「記憶」と「推論」を与えるモデル
このWorld Modelの中核にあるのは、物理法則に基づいたモデルです。
ロボットは動画とプロンプト(指示)の組み合わせを通じて、新しい能力を獲得していきます。
動画を使うことで、Neoロボットは以前には訓練されていなかった新しいタスクを学習できるようになるとされています。
1XのCEOであるBernt Børnichは「何年もかけてワールドモデルを開発し、Neoのデザインを可能な限り人間に近づけた結果、Neoはインターネット規模の動画から学習し、その知識を物理世界に直接適用できるようになりました」と述べています。
ただし「あらゆるプロンプトを新しい動作に変換できる」という主張には注意が必要です。
たとえば、Neoに「車を運転して」と指示しても、突然縦列駐車ができるようになるわけではありません。
実際のところ、このワールドモデルは現在のNeoロボットに新しいタスクをすぐに実行させるものではないと、1Xの広報担当者は説明しています。
その代わり、ロボットは特定のプロンプトに関連した動画データを取得し、それをワールドモデルに送り返します。
そのモデルは、ロボットのネットワーク全体にフィードバックされ、物理世界のより良い理解とノウハウを与えていくのです。
この仕組みによって、ユーザーはNeoが特定のプロンプトに対してどのように行動しようとしているか、どう反応しようとしているかについての洞察を得ることができます。
このような行動情報は、1Xがこれらのモデルを訓練する上で役立ち、いずれはロボットが以前に経験したことのないプロンプトにも反応できるようになる可能性があります。
誰もが使える、開かれた技術へ
技術的に画期的であるだけでなく、1Xの姿勢も注目すべき点です。
World ModelはGitHubで公開されており、世界中の研究者や開発者が利用できる仕組みになっています。
これは、閉ざされた企業の研究所の中だけで起きていた進化を、誰もが参加できる「共創」のフェーズへと移したことを意味します。
「人と共に生きるロボット」へ、静かに踏み出す第一歩
1Xが目指すロボットは、工場で黙々と働くだけの存在ではありません。
家庭や病院、レストランや公共空間など、人間と肩を並べて暮らすパートナーとしてのロボットです。
実際、1Xは家庭向けのNeoヒューマノイドの展開を準備中です。
同社は2025年10月にヒューマノイドの予約注文を開始し、2026年中の出荷を予定しています。
広報担当者によれば、予約注文は予想を上回る数に達したとのことですが、具体的な出荷時期や注文数については明らかにされていません。
そのために必要なのは、力でも速度でもなく「理解する力」です。
私たちが何を大切にしていて、何を喜び、何を避けたいと思っているかを、ロボットが少しずつ学び取っていく。
そんな未来が、World Modelによって近づいています。
最後に:ロボットが「気づく」世界が来たら?
もしある日、あなたがソファに疲れて座っているとき、ロボットがそっと毛布をかけてくれたら。
それは、単なるプログラムの命令ではなく、あなたの表情や動作、過去の行動から「あなたの気持ち」に気づいた結果かもしれません。
そんな日常が、特別ではなく「当たり前」になる日はそう遠くないのかもしれません。
World Modelは、その小さな第一歩を、静かに、そして確かに踏み出しました。
参考:Neo humanoid maker 1X releases world model to help bots learn what they see
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