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医療×AIで“見えない飢え”を可視化。重症患者の未来を救う技術『NutriSighT』とは

AI

ICUに新しい風を吹き込むAI「NutriSighT」の挑戦

ある日、あなたがICU(集中治療室)の看護師だったとしましょう。
重症患者が人工呼吸器に頼っている。心拍数は落ち着き、血圧も安定している。
けれど、何かが足りない気がする。
「この人、ちゃんと必要な栄養を取れているのだろうか?」

そんな直感が、命を救う第一歩になるかもしれません。

しかし現実には、重症患者に「ちょうどよい栄養」を与えるのは想像以上に難しい。
体の状態は刻々と変化し、理想的なカロリー量も日々揺れ動く。
しかも、検査や処置のたびに栄養投与が中断されることもしばしば。
結果、患者は「意図せず栄養不足」に陥ってしまうことがあります。

この「見えにくいリスク」に、AIが光を当てようとしています。

重症患者の「栄養不足」をどう予測するか?

ICUにおいて、経腸栄養(EN)は患者の生命維持に欠かせない手段です。
しかし、必要なエネルギー量を正確に見積もり、適切な量を提供するのは至難の業。

研究によると、ICU滞在中の3〜7日目は「後期急性期」と呼ばれ、筋肉量が急激に減少するなど、栄養管理の重要性が高まるタイミングです。
にもかかわらず、多くの患者がこの時期に必要なカロリーの70%未満しか摂取できていない実態が明らかになっています。

それを解決するべく登場したのが、AIモデル「NutriSighT(ニュートリサイト)」です。

NutriSighTとは? 一言でいうと「栄養の未来を予測するAI」

NutriSighTは、人工呼吸器を使用している重症患者が今後「栄養不足に陥るリスクが高いかどうか」を4時間ごとにリアルタイムで予測してくれるAIツールです。
まるでICUの「予言者」のように、刻々と変化する患者の状態を捉え、未来を見せてくれます。

このAIの中核には「トランスフォーマー」という最新の深層学習技術があります。
これは、言葉の並びや時間の流れといった「順番」に強いAIモデルで、もともとは言語処理(翻訳やチャットAIなど)で有名になりました。
それを医療の時系列データに応用したのです。

NutriSighTの主な特徴

NutriSighTは4時間ごとに患者のデータを読み取り、栄養不足の兆候を探ります。
そして3日目から7日目までの未来を予測し、介入のタイミングを可視化します。
さらに、透明性を確保するため、AIの「なぜそう判断したか」も解釈可能になっています。

たとえば、血中ナトリウムや血圧、pH、白血球数といったデータが、栄養状態の予測にどのように関与しているのかも、視覚的に確認できるのです。

実際の効果は? 驚くべき性能差

このAIはヨーロッパの大規模データ(AmsterdamUMCdb)で訓練され、アメリカのデータ(MIMIC-IV)で検証されました。
その結果、内部テストではAUROC 0.81(かなり高精度)、外部検証ではAUROC 0.76(実用に耐える精度)を達成しました。

これは、同条件で比較されたXGBoostという従来型の機械学習モデル(AUROC 0.58)を大きく上回る成績です。

なぜそれが大事なのか? 「気づけなかった患者」が助かる

たとえば、3日目に「この患者は明日も明後日も栄養不足になるリスクがある」とAIが予測すれば、医師や栄養士は事前に対策を立てることができます。
経腸栄養の組成を調整したり、必要に応じて経静脈栄養に切り替えたり、戦略的な判断が可能になるのです。

しかもNutriSighTは、現場の医師がすでに注目している指標(ナトリウム、血圧、体重など)を用いて予測するため「なぜそう判断したのか」が明確です。
これにより、医師がAIを信頼しやすくなり、実用性が高いというわけです。

これからの課題と希望

もちろん、この研究はまだ「第一歩」です。たとえば、栄養過剰や一時的な中断リスクなど、他の問題にはまだ対応していません。
また、AIの性能は1日目から6日目にかけて少しずつ低下していく傾向も見られました。
これは、時間が経つにつれて人工呼吸器を使用している患者数が減少することや、患者の状態が複雑化することが一因と考えられています。

しかし、それでもこのモデルは「誰がいつ栄養不足に陥るのか」という最大の盲点に光を当てたという点で、医療現場に新しい視点をもたらしています。

おわりに – 「AI × 栄養」が命をつなぐ

人工呼吸器につながれた患者は、自らの栄養状態を訴えることができません。
だからこそ、見えないリスクに目を向ける技術が求められています。

NutriSighTは「沈黙する患者の声」をAIという耳で聞き取り、行動へと導くツールです。

医療とテクノロジーが手を取り合い、一人ひとりの命にもっと寄り添える時代が、すぐそこに来ています。

参考:NutriSighT: Interpretable Transformer Model for Dynamic Prediction of Underfeeding Enteral Nutrition in Mechanically Ventilated Patients

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