たとえば、あなたがAIに「今日はどんな一日だったか教えて」と尋ねるとします。
その返事をくれるのは、どこか遠くの巨大なサーバー。
そこには、数え切れないほどの誰かの会話、悩み、夢が保存されています。
でも、ふと考えてみてください。
「そのAI、本当にあなたの言葉を守ってくれているのでしょうか?」
2025年12月、かつて”Signal”という暗号化メッセージアプリを世に送り出し、デジタルプライバシーの在り方を根底から変えた男、Moxie Marlinspike(モクシー・マーリンスパイク)が、再び大きな一石を投じました。
今回彼が挑むのは「ChatGPTのようなAIが抱えるプライバシー問題」への根本的な解決です。
Signalの創設者が目指す”もうひとつのAI”
Moxieが発表した新プロジェクトの名前は「Confer」。
直訳すれば「相談する」ですが、その背後には明確な理念があります。
それは「AIの力を誰でも使えるようにしつつ、個人のプライバシーは絶対に守る」というもの。
現代のAIチャットボットの多くは、ユーザーの入力内容を企業のサーバーに送り、そこで大量のデータとともに処理しています。
これは効率的で便利ですが、同時に「何を話したか」が企業側に知られてしまうリスクも孕んでいます。
たとえば、企業の社員が機密情報をChatGPTに入力してしまったら?
あるいは、個人的な悩みを相談したデータが、広告などに使われてしまったら?
実際、OpenAIはすでに広告のテストを始めています。
Conferが目指すのは、そんな未来を防ぐAIです。
Marlinspikeにとって、こうした保護は、サービスの親密な性質に対する応答でもあります。
「これは積極的に告白を誘う形式の技術だ」と彼は語ります。
「ChatGPTのようなチャットインターフェースは、これまでのどんな技術よりも人々について多くを知っている。それを広告と組み合わせると、まるであなたのセラピストにお金を払って何かを買わせるよう説得させるようなものだ」
どうやって「安全なAI」を実現するのか?
Conferの画期的な点は、複数のシステムを連携させて、徹底的にプライバシーを保護する仕組みにあります。
まず、Conferはシステムとのやり取りをWebAuthnパスキーシステムを使って暗号化します。
残念ながら、この標準はモバイルデバイスやSequoiaを搭載したMacで最も効果的に機能しますが、パスワードマネージャーを使えばWindowsやLinuxでも動作させることができます。
サーバー側では、Conferのすべての推論処理は信頼実行環境(TEE)内で行われ、システムが侵害されていないことを検証するためのリモート認証システムが配置されています。
その内部では、さまざまなオープンウェイト基盤モデルの配列が、入力されたクエリを処理します。
その結果は、標準的な推論セットアップよりもはるかに複雑ですが、Conferの基本的な約束を果たしています。
これらの保護が機能している限り、情報が外部に漏れることなく、モデルと機密性の高い会話をすることができるのです。
このアプローチは、あなたのConferでの会話がモデルの訓練に使われたり、広告のターゲティングに使われたりしないことを保証します。
それは単純な理由によるものです。ホスト側がそれらにアクセスできないからです。
また、Conferの開発はオープンソースで進められており、透明性の高いプロジェクトになっています。
これは、Signalの時と同じ方針で、誰でもコードを見て、改善提案を行い、信頼できる形で使えるようになることを意図しています。
なぜ今、「プライバシー重視のAI」が必要なのか?
ここまで聞いて、こう思った方もいるかもしれません。
「便利なら多少の情報提供も仕方ないんじゃない?」
確かにその考えも一理あります。
しかし、Marlinspikeが投げかける問いは、もっと根本的なものです。
「AIは、誰の言葉を学んで、誰のために応えているのか?」
AIの進化は、まさに「言葉の力」の集積によるものです。
でもその”言葉”が、本人の知らない間に企業の資産になっていたら?
それって本当にフェアな未来でしょうか?
Conferのような試みは、私たちがAIとどう付き合うべきか、そしてテクノロジーにおける”倫理”をどう再定義すべきか、深く問いかけているのです。
新しい選択肢が、私たちの未来を変える
Conferの無料プランは、1日20メッセージと5つのアクティブなチャットに制限されています。
月額35ドルを支払う意思のあるユーザーは、より高度なモデルやパーソナライゼーション機能とともに、無制限のアクセスを得ることができます。
これはChatGPTのPlusプランよりもかなり高額ですが、プライバシーには相応のコストがかかるのです。
それでも、そのコンセプトはすでに多くの技術者やプライバシー活動家たちの心を打っています。
何より重要なのは、このプロジェクトが私たちに「選択肢」を与えてくれることです。
今までは、大規模な企業が提供するAIだけが唯一の選択肢でした。
でもこれからは「あなたのデータをあなたが守りながら使えるAI」という新しい選択肢が生まれようとしています。
それは、便利さを犠牲にせず、安心も手に入れる未来。
言葉を預ける相手を、自分で選べる未来。
そんな未来が、すぐそこまで来ているのです。
さいごに:AIとともに歩む「自由な時代」へ
技術が進めば進むほど、大切になるのは「人間らしさ」です。
Moxie Marlinspikeのような人物が示すのは、テクノロジーを恐れるのではなく、人を大切にする技術を選び、育てるという姿勢です。
Conferは、AI時代における”デジタルの良心”ともいえる存在になるかもしれません。
あなたがAIに「おはよう」と話しかけるとき、その声が誰にも盗み聞きされず、あなたのものであり続ける未来。
その第一歩が、今ここに刻まれようとしています。
参考:Moxie Marlinspike has a privacy-conscious alternative to ChatGPT
コメント