ある日、軽い咳が続いていた友人が病院で受けたレントゲン検査で「肺に影がある」と言われました。
結局、さらに詳しいCT検査で結核と診断されたのですが、そのとき彼はこうつぶやいたのです。
「最初から見つけてもらえてたら、もう少し早く治療が始められたのにな」
今、日本ではあまり耳にしないかもしれませんが、世界では今もなお「結核(TB)」が最も多くの命を奪っている感染症です。
そして、感染力が高く、すぐに治療を必要とする「活動性結核(ATB)」の早期発見は、感染拡大を防ぐためにも極めて重要です。
けれども、現場の医師や放射線技師にとって、ATBのCT画像を見て的確に診断するのは簡単ではありません。
肺炎や肺結節(多くは良性)と見分けがつきづらく、診断には熟練した目と膨大な経験が必要だからです。
では、その「目」をAIが持つことができたら?
複雑な画像の中から”異常”を見抜くAI
今回紹介するのは、AIを用いてCT画像から活動性結核を見つけ出すという、まさに最前線の取り組みです。
2025年に発表された研究では、中国の結核専門病院3施設から集めた1,741件のCT画像を用いて、AIの診断能力が検証されました。
対象となったのは、活動性結核(ATB)、肺炎、肺結節(多くは良性)、正常という4つの病状です。
このAIは、特にATBとその他の異常を区別する点に重点を置いて訓練されており、CT画像を解析して「病変らしき部分」を自動で認識します。
その部位に対してスコアをつけ、可能性の高い順に判断を行います。
たとえば、専門医が見ると判断が難しい”もやもやとした影”を、AIは「これはATBの可能性が高い」と即座に示してくれるのです。
4つのリアルな診断シナリオで検証
この研究の特徴は、AIを単に”理想的な条件”で試すのではなく、実際の医療現場に近い4つのシナリオで検証している点にあります。
シナリオ1:異常 vs. 正常
日々大量に撮影されるCTの中から、明らかな異常を選別するための「第一フィルター」です。
AIは病院A、B、Cでそれぞれ0.943、0.923、0.950という高いAUC(判別精度の指標)を記録しました。
シナリオ2:ATB vs. 正常
結核の疑いがあるかどうかを、正常と明確に区別する場面。初期スクリーニングや濃厚接触者の検査に有効です。
このシナリオでは、3つの病院すべてでAUCが0.95を超えるという驚くべき結果となりました。
これは「95%以上の確率で、AIがATBかどうかを正しく区別できる」ということを意味します。
まるで、AIが”熟練の目”を手に入れたかのようです。
シナリオ3:ATB vs. 非ATB(肺炎・結節・正常)
結核かどうかを他の一般的な肺疾患と区別する、より難しい判断。
病院AとBではAUCが0.9を超えましたが、病院Cでは0.829とやや低下しました。
シナリオ4:ATB vs. 他の異常(肺炎・結節のみ)
既に「正常ではない」と分かっているケースの中から、結核を特定する場面。
このシナリオでは、AUCは0.762から0.906の範囲となり、最も難しい判別課題であることが示されました。
なぜAIが必要なのか? 人手不足と時間の壁
特に高まる期待が寄せられているのは、結核の流行地域や医療資源の限られた場所です。
専門医が少なく、1日に何十件ものCTを診断しなければならない現場では、見落としや診断の遅れが大きなリスクとなります。
AIが「ファーストリーダー」として先に異常を指摘すれば、医師は本当に確認すべき画像に集中できます。
逆に「セカンドリーダー」として最後のチェックを担えば、見落としを防ぐセーフティネットにもなります。
特にATBのような感染性の高い疾患では、一人の見落としが、周囲の多くの人に影響を与えることもあるのです。
AIは万能ではない、だからこそ「共に診る」ことが鍵
ただし、AIも間違えることがあります。
たとえば、肺結節の一部をATBと誤認することもあり、これは実際に研究でも報告されています。
結節内に結核性の肉芽腫が存在する場合や、結核病巣内に結節性病変が見られる場合に、こうした誤判定が起こりやすいとされています。
けれど、それは「AIに任せるのではなく、AIと共に診る」という姿勢の重要性を示しています。
AIは、”疲れない目”と”統計的な裏付け”をもつ存在です。
人間の勘や経験とは異なる視点で、異常を見つけてくれます。
それをどう使いこなすかは、私たち人間次第なのです。
最後に 未来の医療に必要なのは「チームプレー」
この研究は、結核と闘う現場においてAIが大きな味方になる可能性を示しました。
どんなに優れたAIでも、一人で診断を完結させることはできません。
けれど、人間とチームを組めば、その力は何倍にもなります。
「誰かを見落とさないために」
「もっと早く治療につなげるために」
医療の未来は、人間とAIが支え合うチーム医療のかたちへと向かっているのかもしれません。
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