ある日、役所で長蛇の列に並びながら、ふとこんなことを思ったことはありませんか?
「もっと効率よく、手続きが進められたらいいのに…」
「何をどう申請すればいいのか分からない…誰か、やさしく教えてくれるAIがいたらなあ」
その「もしも」が、現実になろうとしています。
2026年1月、英国政府がついに本格的に動きました。
選ばれたのは、ChatGPTのライバルとして注目を集めるAI企業「Anthropic(アンソロピック)」です。
Anthropicとは? ChatGPTとの違いは?
まず、「Anthropicって誰?」と思った方のために、簡単にご紹介しましょう。
Anthropicは、OpenAI(ChatGPTを開発した企業)出身のメンバーたちによって設立されたAI企業です。
彼らが開発するAI「Claude(クロード)」は、ただ賢いだけでなく「安全性」と「倫理性」に重点を置いた設計が特長です。
ChatGPTが”おしゃべり上手な万能型”だとすれば、Claudeは”慎重で信頼できる参謀タイプ”といえるかもしれません。
実際、多くの専門家たちが「Claudeは政府や法務、教育など、高い透明性と信頼性が求められる分野に向いている」と評価しています。
なぜ政府はAnthropicを選んだのか?
今回のプロジェクトは、英国の「Department for Science, Innovation, and Technology(DSIT:科学・イノベーション・技術省)」が主導するAI活用の実証実験です。
2025年2月に締結された覚書に基づき、政府機関の職員や市民がAIアシスタントを活用できるかを検証するものです。
そこで重要になるのが、正確な情報提供ができること、機密情報を安全に取り扱えること、偏った判断を避け公平に対応できること。
このすべてにおいて、AnthropicのClaudeは高い評価を受けており、まさに”最も信頼できるAI”として選ばれたのです。
どんなことに使われるの?
では、実際にどんなシーンでClaudeが活躍するのでしょうか。
今回のパイロットプロジェクトでは、特に「雇用支援」に焦点が当てられています。
たとえば、求職者が仕事を見つけたり、職業訓練の機会を探したり、利用可能な支援制度を理解したりする際のサポート役を担います。
さらに、複雑な行政手続きのガイド役として職員や市民をサポートしたり、政策文書のドラフト作成や要約の補助、膨大なデータの分析・整理なども行います。
つまり、これまで数時間かかっていた業務が、わずか数分で処理できる可能性があるのです。
これは、役所の現場だけでなく、全国民にとっても大きな恩恵になるはずです。
Claudeの「やさしさ」が、カギになる
面白いのは、Claudeの設計思想に「人間中心主義」があること。
Anthropicは、AIが人間に取って代わるのではなく、人を支える”相棒”であるべきだと考えています。
たとえるなら、難しい書類を前に困っているあなたの隣に、そっと座って「それなら、まずこの欄に名前を書いてみましょうか」と穏やかに教えてくれる存在。
そんなAIが、国家の中枢に導入されようとしているのです。
特に今回のシステムには、過去のやりとりを「記憶」する機能が備わっています。
これにより、利用者は情報を何度も入力し直すことなく、中断したところから再開できるのです。
ただし、データの取り扱いには細心の注意が払われており、利用者は自分のデータを完全にコントロールでき、いつでもシステムに記憶させないよう選択できます。
安全性への配慮と段階的な展開
今回のプロジェクトはあくまでパイロット、つまり試験導入にすぎません。
英国政府は「Scan, Pilot, Scale(調査、試行、拡大)」という慎重なアプローチを採用しており、まずは限定的な環境でテストを行い、安全性と有効性を検証してから、より広い範囲での展開を目指します。
英国AI Safety Institute(AI安全性研究所)も関与し、モデルのテストと評価を実施。
すべての個人情報の取り扱いは英国のデータ保護法に準拠しており、プライバシーへの懸念を事前に防ぐ設計になっています。
知識の移転と自立への道
特に注目したいのは、政府が単なる効率化ではなく「誰にとっても使いやすい、やさしい行政」を目指していること。
そして、Anthropicのエンジニアが政府職員やGovernment Digital Service(政府デジタルサービス)の開発者と協力して作業を進める点です。
この協力体制の明確な目標は、政府内部にAIの専門知識を構築すること。
外部ベンダーに依存するのではなく、初期の構築段階でスキルを移転することで、英国政府は将来的にこのシステムを独自に維持・運営できるようになります。
これこそが、本当の”AI活用”の第一歩なのだと思います。
未来は、もう目の前にある
テクノロジーの進化はときに私たちを不安にさせます。
でも、今回のAnthropicの取り組みを見ていると、AIは「冷たい機械」ではなく「人のそばに寄り添う存在」になれるのだと感じさせてくれます。
Anthropicの英国・アイルランド・北欧担当責任者であるPip Whiteは「この英国政府とのパートナーシップは、私たちの使命の中核です。これは、最先端のAIが公共の利益のために安全に展開される方法を示し、政府が市民が依存するサービスにAIを統合する方法の基準を設定するものです」と述べています。
政府とAI。
その組み合わせは、これまでどこか遠い未来の話のように思われてきました。
しかし、今まさにその扉が静かに開きはじめています。
これからの公共サービスは「手続きが面倒な場所」ではなく「誰もが安心して相談できる場所」へと変わっていくのかもしれません。
そして、その変化の裏には、人とAIが”いいコンビ”になれる未来が待っているのです。
参考:Anthropic selected to build government AI assistant pilot
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