ある日、子どもを抱えたシングルマザーが、熱を出した息子を前に困り果てていました。
仕事を休めず、病院に連れていくお金もない。
そんなとき、彼女がスマートフォンを取り出し、アプリに話しかけたのです。
「息子の熱が下がらないんです」
すると、アプリは優しい声で答えました。
「お子さんの様子を教えてください」
それは、人間ではなく”AIの医者”でした。
この物語は、未来の話ではありません。
実際に今、すべての人が無料で医療相談できるAIドクターの開発が進んでいます。
今日は、その最前線にいるスタートアップ「Lotus Health(ロータス・ヘルス)」の驚くべき挑戦を紹介します。
医者が足りない世界に、AIという処方箋
私たちは普段、当たり前のように病院に行き、お医者さんに相談します。
でも、世界には基本的な医療にすらアクセスできない人々が40億人以上いると言われています。
遠隔地に住んでいる人、お金がない人、診療所が満員で予約すら取れない人。
彼らにとって、病気は命に関わる深刻な問題です。
こうした”医療格差”を解決しようとしているのが、Lotus Healthという新興企業。
彼らは、24時間365日、50の言語で患者と対話し、診断や処方の提案ができるAIドクターを開発しています。
そして驚くべきことに、そのサービスを完全無料で提供することを目指しているのです。
AIが”お医者さん”になる時代
「AIが人間の代わりに病気を診るなんて、本当にできるの?」
そう感じる方も多いかもしれません。
しかしLotus HealthのAIは、単なるチャットボットとは違います。
このAIは、最新のエビデンスに基づく研究と患者の病歴や臨床的な回答を統合して、治療計画を生成する能力を持っています。
医師が尋ねるのと同じ質問をするよう訓練されており、まるで実際の医療行為のように機能します。
しかも、Lotus Healthは全米50州で営業する認可を持ち、医療過誤保険にも加入し、HIPAAに準拠したシステムで患者記録にもフルアクセスできる体制を整えています。
たとえるなら「本物の医療機関の仕組みを持った、AIが働く診療所」なのです。
ただし、AIには「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる誤った情報を生成する問題もあります。
そのため、Lotus Healthでは必ずスタンフォード大学、ハーバード大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校などのトップ医療機関出身の認定医が、最終的な診断、検査指示、処方箋をレビューする仕組みになっています。
「AIがアドバイスを出しますが、実際にサインするのは本物の医師です」と、創業者のKJ・ダリワル氏は説明します。
なぜ”無料”なのか? 資金はどこから?
もちろん、こんな高度なAIを無料で使えるなんて、にわかに信じがたい話です。
どこからお金が出ているのか疑問になりますよね。
その答えが、シリーズAラウンドで調達された3,500万ドル(約52億円)の資金です。
出資したのは、CRVとKleiner Perkinsという著名なベンチャーキャピタル。
彼らは、Lotus Healthのビジョン「すべての人に公平な医療を届ける」に共感し、未来への投資としてこのAIに期待を寄せているのです。
この資金調達により、Lotus Healthの総資金調達額は4,100万ドルに達しました。
ダリワル氏によると、将来的にはスポンサー付きコンテンツやサブスクリプションといったビジネスモデルも考えられますが、現在の焦点は収益化ではなく、製品開発と患者の獲得に完全に集中しているとのことです。
本当に命を救えるのか?
Lotus Healthは、プライマリケア医が不足している中、従来の診療所の10倍もの患者を診ることができると主張しています。
これは1回の診察を15分に制限した場合でもです。
もちろん、AIはまだ万能ではありません。
Lotus Healthも仮想診療の限界を認識しており、緊急の健康問題については最寄りの救急医療センターや救急外来に患者を誘導します。
また、身体検査が必要なケースでは、対面の医師に紹介する仕組みになっています。
それでも「何もない」より「最初の相談相手」がいることが、どれだけ大きな意味を持つか、想像してみてください。
テクノロジーは、やさしさになれるか?
Lotus Healthの試みは、単に技術の革新ではありません。
それは”テクノロジーをやさしさに変える”挑戦です。
「お金がなくても、田舎に住んでいても、誰かが自分の体を心配してくれる」
そんな当たり前を、AIという形で届けようとしているのです。
投資家の一人、CRVのゼネラルパートナーであるサール・グル氏は、取引を主導し同社の取締役会に加わりました。
DoorDash、Mercury、Ringの初期投資家でもある彼は「多くの課題はありますが、SpaceXが宇宙飛行士を月に送るようなものではありません」と語ります。
グル氏は、パンデミック中に確立された遠隔医療の枠組みと、AIの最近の進歩により、Lotus Healthが既存の規制や技術的なハードルの多くを乗り越えられると確信しています。
「これは大きな挑戦です」とグル氏。しかし投資家にとって、それこそが魅力なのです。
Lotus Healthは、プライマリケアのモデル全体を根本から再構築しようとしているからです。
おわりに:医療の未来を支えるのは、あなたの関心かもしれない
Lotus Healthだけがこの分野に取り組んでいるわけではありません。
Lightspeedが支援するDoctronicなどの競合も存在します。
しかしLotus Healthは、少なくとも現時点では、ケアの全スイートを完全無料で提供することで差別化を図っています。
「AIが医者になる時代なんて想像できなかった」
そう語るのは、ある患者の言葉です。
でも今、その時代が本当に始まろうとしています。
私たちができるのは、この新しい試みに耳を傾け、知り、広めること。
関心を持つことが、未来の医療を支える一歩になるかもしれません。
心に残るテクノロジーとは、私たちを少しでもやさしくしてくれるものなのかもしれませんね。
参考:Lotus Health nabs $35M for AI doctor that sees patients for free
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