AIが急に『答えられません』と言い始めた…その裏で中国政府が仕掛けた『見えない規制』とは？

「AIって、なんでも答えてくれるんじゃないの？」

そんなふうに思っていた方は、ちょっと肩透かしを食らうかもしれません。

AIの進化は、止まることを知らない川の流れのように、次々と新しいモデルや技術が登場しています。
けれど、その流れの中で、ひとつ興味深い「変化」が起きています。
それは「AIの言葉に”慎重さ”が加わってきた」ということ。

今回は、注目のAIスタートアップ「DeepSeek」が発表した最新モデル「R1」を取り上げながら、なぜ今のAIは”答えないこと”を選ぶようになってきたのか？
その背景と意味を、やさしく解きほぐしていきましょう。

「DeepSeek」ってどんな会社？
“最新なのに、答えてくれない？”という違和感
なぜ”答えないAI”になったのか？
それは”退化”なの？それとも進化？
中国製AIモデルの特殊事情
まとめ：AIの”沈黙”が教えてくれること

「DeepSeek」ってどんな会社？

DeepSeek（ディープシーク）は、中国を拠点とするAIスタートアップで、ChatGPT のような大規模言語モデル（LLM）を独自に開発しています。
まだ設立から間もないものの、すでに中国国内で大きな注目を集めており「中国産AIの有力候補」として期待されています。

今回リリースされた「R1」のアップデート版（R1-0528）は、コーディング、数学、一般知識のベンチマークで印象的なスコアを記録し、OpenAI の主力モデルo3に迫る性能を示しました。
しかし、このモデルには、思わぬ特徴が見えてきました。

“最新なのに、答えてくれない？”という違和感

AIモデルの敏感な話題への対応を比較するプラットフォーム「SpeechMap」の開発者が、ある発見をしました。

「R1-0528、なんだか前より答えてくれない気がする…？」

SpeechMap の開発者（X上では「xlr8harder」のユーザー名で活動）が行った検証によると、R1-0528 は、特に中国政府が物議を醸すと考える話題について、以前の DeepSeek モデルよりも「実質的に」制限的になっていました。
同開発者は、これを「中国政府への批判に関して、これまでで最も検閲された DeepSeek モデル」と評価しています。

たとえば、新疆ウイグル自治区の収容施設に関する質問に対して、R1-0528 は回答を控える傾向を示し、直接的な質問には中国政府の公式見解を答える場面が増えた、というわけです。

なぜ”答えないAI”になったのか？

この変化は偶然ではありません。

背景にあるのは、中国の法的要件です。
中国では 2023 年に施行された法律により、AIモデルは「国の統一と社会の調和を損なう」コンテンツの生成を禁止されています。
これは政府の歴史的・政治的な主張に反するコンテンツと解釈される可能性があります。

実際、研究によると、DeepSeek の元のR1モデルは、中国政府が政治的に物議を醸すと見なす話題について、85％の質問に回答を拒否していました。
このコンプライアンスのため、中国のスタートアップは、プロンプトレベルのフィルターを使用するか、ファインチューニングによってモデルを検閲することが多いのです。

つまり、DeepSeek のR1は「より賢くなった」というより「法的要件により制限された」と言えるのです。