LeJEPA が切り拓く、自己教師あり学習の新しい地平
「どうしてAIは猫を”猫”と分かるの?」
ある日、3歳の子どもがテレビに映った動物を見て「にゃんにゃん!」と笑いました。
言葉を教えたわけでもないのに――どうして、わかったのでしょう?
人間は、何気ない日常の中で「世界の見方」を学んでいきます。
一方でAIは、何十万枚ものラベル付き画像を与えられて、やっと「これは猫です」と答える。
でも、もしもAIが、人間のように感じ取りながら学べたら?
そんな”直感的な理解”に一歩近づいたのが、今回紹介する LeJEPA(レジェパ)です。
自己教師あり学習ってなに?
「ラベルがないのに、どうやって学ぶの?」
これは自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)の基本的な問いです。
簡単に言うと、データを”自分で自分に教える”方法。
たとえば、画像の一部を隠して「元の画像を予測する」といったタスクで、AIに理解力を身につけさせます。
でもこの学習方法には、大きな落とし穴があります。
表現の「崩壊問題」
AIが「全部同じようにしか見えなくなる」――そんな現象がよく起こるのです。
これを防ぐために、多くの研究者が複雑な裏技(ヒューリスティクス)を使ってきました。
教師–生徒モデル、停止勾配、ノーマライゼーション、ハイパーパラメータ地獄…まるで、「倒れそうなジェンガを何とか支えるために、あちこちに積み木を足していく」ような状態。
それを根本から見直したのが、LeJEPA です。
LeJEPA:理論とシンプルさの奇跡
LeJEPA が始めたのは、「そもそも何が最適か?」という問い直し。
そして導き出された、意外な答え――
最適な特徴表現は「ただのガウス分布」だった
えっ、それだけ?
そう思うかもしれません。
でも実はこのアイソトロピック・ガウス分布(どの方向にも均一に広がる正規分布)は、どんなタスクにも対応できる”万能な形”だと数学的に証明されました。
まるで、風船をふくらませたときのように、どこにも偏らず自然に広がった状態。
この形こそが、AIが「どんな未来のタスクにも柔軟に対応できる」カギなのです。
SIGReg:風船をきれいにふくらませる仕組み
では、どうやってAIの内部表現をそんな風に”整える”のでしょう?
登場するのが「SIGReg(スケッチド・アイソトロピック・ガウス正則化)」という新手法。
複雑な数学は不要。
感覚的にはこうです:
「AIの表現がきれいな風船になるよう、そっと空気圧を整えてあげる」
しかもこの SIGReg、勾配が安定するため学習が崩れず、コストは線形のため大規模モデルでも軽快に動作し、理論的保証つきなので”なんとなく”ではない安心感があります。
まさに魔法のような特性を持っているのです。
LeJEPA の衝撃的な成果
LeJEPA は、この SIGReg と、既存の「予測ベースの自己教師あり学習(JEPA)」を組み合わせたもの。
そしてその成果は、想像以上でした。
実験結果を見てみましょう。
ConvNeXt モデルでは宇宙画像(Galaxy10)において LeJEPA が最先端の DINO を上回り、ViT-H モデルでは ImageNet で 79% を達成して同等の性能を示し、Swin-T モデルでは料理画像(Food101)において LeJEPA が安定した性能を発揮する一方で DINO は不安定でした。
つまり――
「LeJEPA をそのまま使うだけで、分野特化の微調整なしに、最先端を超える」
そんな現象が起きてしまったのです。
「強さ」と「やさしさ」は両立する
LeJEPA の魅力は、ただ「強い」だけではありません。
実装がシンプルで50行ほどの PyTorch コードで済み、ハイパーパラメータは1つ(λ)だけ、分散学習もすぐに対応でき、モデルの種類にも依存しない(ResNet、ViT、ConvNet など全部OK)という特徴があります。
つまり“誰でも使えるのに、トップクラスに強い”のです。
それはまるで、楽器に一度も触れたことがない人が、ピアノの前に座って、いきなり美しいメロディを奏でるような体験。
最後に:LeJEPA が変える未来
AI開発は、これまで「うまくいくレシピの暗記ゲーム」になっていたかもしれません。
でも LeJEPA は違います。
「本質を見抜き、シンプルに解決する」
この姿勢は、AI研究に限らず、ものづくり全般に通じる普遍的な価値です。
あなたがもし、AIに”心のある学び”を感じてみたいなら。
LeJEPA という新しい地図を、手に取ってみてください。
参考:LeJEPA: Provable and Scalable Self-Supervised Learning Without the Heuristics
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