「もしAIが、自分の考えをその場で実験できたら?」
そんな問いが、未来のAI開発を大きく変えようとしています。
手探りで考える。そんなAIがあってもいいじゃないか
人間の思考って、けっこう「試行錯誤」の積み重ねですよね。
たとえば新しいレシピを思いついたとき、実際にキッチンで作ってみて「あ、やっぱり砂糖はもう少し少なめがいいな」と調整したりします。
ところが、今までのAIは違いました。
どんなに賢くても、考えるのは「頭の中」だけ。
実際に手を動かして、試して、間違えて、学ぶ──そんなことができなかったのです。
Anthropic が開発した「MCP(Model Context Protocol)」は、まさにその常識を覆すもの。
AIエージェントが外部システムと連携し”自分の思考を実行してみる”という、まったく新しい能力を手に入れました。
「考えるAI」から「試すAI」へ:MCP とコード実行の仕組み
では、MCP とは何か?
簡単に言えば、AIエージェントと外部ツールやデータを接続するための標準プロトコルです。
そして、コード実行環境と組み合わせることで、AIは自分でコードを書いて実行し、結果を確かめながら作業を進められるようになります。
ちょっとイメージしてみてください。
あなたが何かの問題を考えているとき、横にもう一人の自分がいて、すぐに実験してくれる。
しかも、めちゃくちゃ優秀。
たとえば「この数式って合ってる?」と聞けば、その場で計算して結果を返してくれる。
まさに「思考の右腕」がいるような感覚です。
従来のAIエージェントは、たとえばデータ分析やコードを書いたりするとき、すべてのツール定義を最初に読み込み、中間結果もすべてモデルに通す必要がありました。
でもコード実行環境を使えば、AIは必要なツールだけを読み込み、データ処理はコード実行環境内で完結させ、最終結果だけをモデルに返すことができるのです。
これは、AIが「プログラミングを使って考える」という、エンジニアにとってごく自然なプロセスを手に入れた瞬間です。
想像を超える応用の可能性
この仕組み、単に便利なだけではありません。
もっと根本的に、AIの使い方そのものを変える力を持っています。
たとえば――
プログレッシブ・ディスクロージャー(段階的な情報開示):必要なツールだけをオンデマンドで読み込むことで、トークン消費を大幅に削減。
従来15万トークン必要だった処理が、わずか 2,000 トークンで済むケースも。
コンテキスト効率の高いデータ処理:1万行のスプレッドシートから必要な行だけをフィルタリングし、モデルには5行だけを見せる、といった効率的な処理が可能に。
強力で効率的な制御フロー:ループや条件分岐、エラーハンドリングをコードで実装することで、個別のツール呼び出しを繰り返すよりも高速かつ効率的に。
プライバシー保護:機密データを実行環境内で処理し、モデルには必要な結果だけを渡すことで、個人情報が不要にモデルのコンテキストに入ることを防ぐ。
状態の永続化とスキルの蓄積:作業途中の結果をファイルに保存したり、効果的だったコードを再利用可能な「スキル」として保存することで、エージェントが進化する土台を作る。
しかもこのアプローチ、適切なサンドボックス環境があれば、クラウド上で安全に、効率的に動かせるのです。
それでも、AIは「魔法の杖」ではない
ただし、注意も必要です。
AIがコードを実行できるということは、セキュアな実行環境、適切なサンドボックス化、リソース制限、監視が必要になるということ。
Anthropic はこの点にも丁寧に配慮しています。
エージェントが生成するコードを安全に実行するためのインフラストラクチャが必要であり、これには運用上のオーバーヘッドとセキュリティ上の考慮事項が伴います。
たとえるなら、鍵のかかった実験室の中で、安全な器具だけを使って実験するようなもの。
つまり、便利さと安全性のバランスがしっかり取られているのです。
まとめ:思考が「触れる」時代へ
私たち人間は、ただ考えるだけでなく「手を動かして確かめる」ことで深く学んできました。
そしていま、その力をAIエージェントにも与える技術が登場しました。
それが MCP とコード実行の組み合わせです。
MCP は、AIエージェントがより効率的に、柔軟に、そして人間のエンジニアに近いかたちで問題を解くための大きな一歩です。
「考えること」と「試すこと」の境界がなくなったとき、AIエージェントはただの道具ではなく“共に試行錯誤するパートナー” へと進化していくのかもしれません。
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