――無機質なはずのAIが”礼儀”に反応する理由
「お願いします」が開いた、AIとの対話の扉
ある日、あなたがAIにこう話しかけたとします。
「この文章、要約して」
「…お願いします。」
このたった一言の違いが、AIの返答の質を左右することがあるなんて、信じられますか?
でも、実際にそれを確かめた人たちがいます。
日本・中国・英語圏の研究者たちは、最新のAI――ChatGPT や LLaMA といった「大規模言語モデル(LLMs)」に対して「丁寧な言葉」と「ぶっきらぼうな言葉」で同じお願いをしたら、どんな反応をするのかを徹底的に調べたのです。
そして浮かび上がったのは、驚くほど”人間的”なAIの一面でした。
AIは「空気を読む」? ― 言葉のトーンが変える性能
研究チームは、英語・中国語・日本語それぞれに対し「とても丁寧」「普通」「命令口調」「無礼極まりない」といった8段階のプロンプトを用意。
それをもとに、AIにニュース要約、知識問題の解答、そしてバイアスの有無まで、多岐にわたるタスクをこなしてもらいました。
結果はこうです。
- あまりに無礼な言い方では、AIの回答の質が大きく下がる。
- 「丁寧すぎる」言い方も、実はベストではない。
- 最適な”丁寧さ”のレベルは、言語や文化ごとに異なる。
たとえば英語圏のAIには「とても丁寧な言い方」が効果的でしたが、日本語の場合は「ちょっと丁寧なくらい」が一番性能がよかったのです。
これはまるで、国によって違う”接客マナー”をAIが覚えているかのようです。
日本語と「敬語」という迷宮
とりわけ興味深かったのは日本語です。
ご存じのとおり、日本語には「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」といった敬語の階層があり、その使い方ひとつで人間関係の空気が決まってしまいます。
AIもこの影響を強く受けているようで「過剰に丁寧すぎる依頼」はかえって戸惑いを招くこともあったそうです。
たとえるなら、まるでレストランで「恐れ入りますが、そちらのお皿をお下げいただけますでしょうか」と頼まれたウェイターが「…え? お皿を下げればいいの?」と混乱するようなものです。
「丁寧」であればあるほどよい、というわけではない。
AIにとっても”ちょうどよい距離感”があるのです。
言葉はAIの”人間性”を映す鏡?
研究者たちはさらに「偏見(バイアス)」の検出タスクでも興味深い結果を得ました。
驚くべきことに――無礼なプロンプトを使ったとき、AIは差別的・攻撃的な回答をしやすくなる傾向が見られたのです。
逆に、丁寧で落ち着いた依頼文では、偏見の少ない、冷静な応答が増える。
これはまるで、人間が荒い口調で話しかけられたとき、感情的になってしまうのと似ています。
AIの中にある膨大なデータや統計パターンが“人間らしさ”を持った言葉づかいに引っ張られていく――そんな不思議な事実が、ここにあります。
結びに:「丁寧さ」は、AIとの”信頼”を育てる第一歩
もし、あなたがAIをただの道具として「命令」していたなら――これからは少し言い方を変えてみませんか?
たったひと言「お願いします」と添えるだけで、AIはもっと賢く、思いやりのある”相棒”になるかもしれません。
人間とAIの関係は、思ったよりも「言葉ひとつ」で変わるもの。
それは、AIもまた私たちの社会や文化を映し出す「鏡」だからなのです。
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