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AIを“細かく分けるだけ”で、なぜミスがゼロになるのか?

AI

スマホを作るにも、パンを焼くにも「ミスしない力」が必要

私たちが何気なく使っているスマートフォン。
その製造の裏には、約10億人近い人たちが関わる膨大な作業があります。
ひとつのミスがあるだけで、製品が不良品になったり、安全性が損なわれることもあります。
パン作りだって同じです。
手順を間違えると、ふくらまないし、美味しくもありません。

社会が成り立つには「細かいステップを正確に実行する力」が必要です。
では、AIにこれができるでしょうか?

LLM(大規模言語モデル)は、賢いけど「ミスする」

ChatGPT に代表されるような「大規模言語モデル(LLM)」は、確かにとても賢くなりました。
論文を要約したり、プログラムを書いたり、計画を立てたりもできます。

でも、長い作業になると、途端にダメになるのです。

たとえば「ハノイの塔」という有名な論理パズルで5枚から6枚のディスクくらいなら高い成功率で解けるのに、それ以上増えると、成功率がゼロに急落してしまいます。
数百ステップを超えると、必ずどこかでミスして失敗してしまうのです。

1回の成功率が 99% でも、100 万回やれば失敗する確率はほぼ 100%。
つまり、普通のAIに「100 万回ミスなくやって」と頼むのは、無理なんです。

解決法:一人の”天才”に頼らず、「100 万人の小さな助っ人」に任せる

そこで登場したのが「MAKER(マーカー)」という仕組み。
これが、驚くべき方法で問題を解決しました。

発想はシンプルです。
「タスクをできる限り小さく分けて、それぞれ別のAIエージェントに担当させる」というものです。

100 万ステップの作業を 100 万個に分けて、それぞれを”小さなAI”が一歩ずつ担当します。
これを「Maximal Agentic Decomposition(最大限の分業)」と呼びます。
つまり、大仕事を”極限まで小分け”にして、100 万個の”超単純な作業”に分けて実行するのです。

でも、それぞれのAIが間違えたらどうするの?

そこで使われたのが「多数決」と「赤信号(Red-flagging)」の組み合わせです。

1つの作業を、複数のAIが同時に担当し、同じ答えが一定数出たら”正解”とみなす方式。
これを「First-to-ahead-by-k voting(一定差リード方式の投票)」といいます。
さらに、明らかに変な答え(形式ミス、長すぎる文章など)を「赤信号」として無視します。

この2つの工夫によって、1ステップごとの失敗率が劇的に下がり、100 万回のステップを”ミスゼロ”で完了できたのです。

MAKER が解いたのは、「ハノイの塔」の”究極の難問”

MAKER は、ハノイの塔の20枚ディスク版(100 万ステップ以上!)に挑戦しました。

従来の LLM では数百ステップで失敗するこのタスクを、なんと1回のミスもなく解ききったのです。
しかも、使ったAIは高価な最先端の推論モデルではなく、比較的安価な小型の非推論モデル(gpt-4.1-mini)。
これは、AIの未来に大きな可能性を示しています。

まるで”AIの工場”を建てるような発想

MAKER の構造は、実はソフトウェア開発の「マイクロサービスアーキテクチャ」に似ています。

小さな役割を持つAI(マイクロエージェント)が自律的に働き、失敗があれば入れ替え可能で、全体が壊れない設計になっています。
さらに、自然言語でやりとりできる、柔軟なインターフェースを備えています。

つまり、MAKER は「AIを使って巨大なプロセスを安全に動かす工場」を作る設計図なのです。

最後に:AIの未来は「大きさ」より「仕組み」にある

多くの人は「AIがもっと賢くなれば、何でもできるようになる」と思っています。
でも、この論文は違う道を示しました。

AIを”もっと大きく”するのではなく”うまく分けて、うまくまとめる”ことで、世界を変えられる。

その姿勢は、人間の社会そのものと同じです。
一人の天才ではなく、分業と協力が社会を動かしています。
AIにも、同じことが言えるのかもしれません。

「AIに 100 万回の仕事をさせて、ミスゼロ」—それは夢物語ではなく「どう仕組むか」で実現できる現実なのです。

参考:Solving a Million-Step LLM Task with Zero Errors

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