ある日、ふと友人にこう聞かれました。
「ねえ、AIってどこの会社が一番すごいの?」
ChatGPTやMidjourneyなど、AIは今や日常会話にまで登場する時代。
でも、そう聞かれて、すぐに「Amazon Web Services(AWS)」と答える人は、少ないかもしれません。
しかし、この記事を読み終わる頃には、あなたも「AWSこそがAI時代の静かな立役者だったんだ」と気づくはずです。
静かなる巨人・AWSとは?
まず、AWSとは何かを少しだけおさらいしておきましょう。
AWS(Amazon Web Services)は、Amazonが提供するクラウドコンピューティングサービスです。
簡単に言えば、「サーバーやデータベースなどのITインフラを、必要なときに、必要なだけ、インターネット越しに借りられるサービス」です。
まるで、自分の家に発電機を置かずに電気を買うように、企業はAWSから「計算能力」を借りて、アプリを動かしたり、データを保存したりできます。
実は、私たちが日々使っている多くのアプリやサービス、たとえばNetflix、Airbnb、Slackなどが、このAWSの力を借りて動いているのです。
AIブームの”黒衣”としてのAWS
2022年から始まった生成AIブームでは、ChatGPTやAnthropic、Stability AIといった名前が話題をさらいました。
ところが、その舞台裏でこれらの企業を支えていたのが、他でもないAWSだったのです。
AWSは、これらのAI企業に対し、膨大な計算リソースとインフラを提供してきました。
言い換えるならば、AIという”大木”が育つための「土壌」と「水」を提供していた存在です。
たとえば、ChatGPTを生み出したOpenAIと競合するAnthropicには、AWSが数十億ドル規模の投資を行い、長期的なパートナーシップを結んでいます。
Stability AIのような企業も、AWSのクラウドを活用してモデルを学習させています。
AIの魔法のような成果の裏には、AWSの「縁の下の力持ち」としての役割があったのです。
レガシーとは、去った後に残るもの
2025年初め、AWSは新たな一歩を踏み出しました。
社内で「エージェンティックAI(agentic AI)」に特化した新しいグループを立ち上げたのです。
このタイミングで浮かび上がるのは、AWSが今後残していく本当の”レガシー(遺産)”は何か?という問いです。
それは単なるクラウド事業の拡大ではありません。
AWSが築こうとしているのは「AIエージェントが動作するための基盤インフラとしての地位」です。
エージェンティックAIとは、単なるチャットボットを超えた、複数のステップを計画し実行できる自律的なAIシステムのこと。
AWSのリーダーシップは、この技術を「数十億ドル規模のビジネス」になりうると位置づけています。
それでも目立たないAWSの理由
ここで、ひとつ疑問が生まれます。
なぜ、こんなに重要な役割を担っているのに、AWSはそれほど話題にならないのでしょうか?
その理由は、AWSが「表舞台に立たないビジネス」を選んできたからです。
あくまで”裏方”に徹し、顧客の成功を第一に考える姿勢を貫いてきました。
たとえば、OpenAIがChatGPTを発表すると、注目はOpenAIに集中します。
でも、その背後でモデルの学習や運用に必要な何千、何万ものGPUを提供しているのがAWSだとしても、彼らはそれを積極的にアピールしません。
これは、映画で言えば、俳優を輝かせる照明係のようなもの。
観客の視線を集めるのは俳優ですが、彼らが輝いて見えるのは、照明の力があってこそです。
新たな時代へ:AWSのこれから
AWSは今後、独自の生成AIサービス「Amazon Bedrock」などを通じて、AI分野での存在感をさらに高めようとしています。
また、自然言語でロボットに指示を出せるようにするエージェンティックAIチームの取り組みなど、物流や運用分野での革新にも注力しています。
2025年6月には、AmazonのCEO、Andy Jassy氏が従業員に向けて率直に語りました。
生成AIとエージェントの広範な利用により、今後数年間で定型業務がより迅速かつ自動化され、採用が減速し、役割が変化し、一部の職種が縮小する可能性があると。
これは、AI導入が単なる効率化にとどまらず、企業のあり方そのものを変えていくことを示しています。
次世代のAIモデル開発において、AWSは”舞台裏”だけでなく”演出家”としての役割も果たすかもしれません。
最後に:未来を支える名もなき力へ
今、AIと聞けば、ChatGPTやAIアート、ロボットなど、目に見えるものばかりが注目されがちです。
でも、華やかな技術が輝くためには、それを支える見えない力が必要です。
AWSは、その見えない力の代表格です。
未来のAIがどれほど進化しても、その土台となる”インフラ”がなければ、何ひとつ形にはなりません。
AWSの本当のすごさは、そこにあります。
だからこそ、私たちがAIの未来を語るとき、AWSという名もなき巨人を忘れてはならないのです。
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