「このデータ、本当に脳の声を聞いてるの?」
脳の活動を覗く技術、それがfMRI(機能的磁気共鳴画像法)です。
心理学、神経科学、精神医学など、さまざまな分野で「脳が何をしているのか」を探るために使われています。
しかし、その魅力とは裏腹に、fMRIには大きな悩みがあります。
それが「ノイズ(雑音)」です。
まるで騒がしいカフェで小さな声の会話を聞き取るように、研究者たちは”脳の本音”をこのノイズの中から必死に拾い上げてきました。
でも、もし、そのノイズを賢く取り除けたら?
それこそが、今回ご紹介するDeepCor(ディープコア)という技術の登場です。
ノイズって何?なぜそんなに困るの?
fMRIが捉える信号には、頭の動き、心拍、呼吸など、意図していない”余計な音”がたくさん混ざり込んでいます。
これらのノイズが、脳の活動そのものと見分けがつかなくなってしまうと、本当に知りたい「脳の反応」が見えなくなってしまうのです。
特に、「個人ごとの脳の違い」を探るような研究では、ほんの少しのノイズでも結果が大きく揺れてしまうことがあります。
そのため、ノイズ除去の進歩は、個人差の理解や個別化精神医療にとって極めて重要なのです。
そこで登場、DeepCor。まるで”脳のノイズキャンセリング”
DeepCorは、音楽のノイズキャンセリングイヤホンのように、fMRIのノイズだけを上手に取り除く技術です。
この仕組みを一言でいうなら「脳の声」と「ノイズの声」を分けて聞き分け、ノイズの分だけ消してしまうというもの。
具体的には、「興味のある脳領域(ROI)」と「興味のない領域(RONI、ここには主にノイズがある)」を区別し、それぞれからfMRIデータを取り出します。
そして、コントラスト変分オートエンコーダー(CVAE)という深層学習のモデルを使って、両者に共通するノイズ特徴を見つけ出し、それだけを除去します。
これにより、純粋な”脳の声”に近いデータが取り出せるのです。
実験でわかった、DeepCorのすごさ
DeepCorの効果は、複数の実験で実証されています。
シミュレーションでのテスト
まずは、人工的に「信号」と「ノイズ」を混ぜたデータを用意し、どれだけ”元の信号”に近づけるかを比較しました。
結果として、ノイズが直線的に混ざっている場合は従来手法のCompCorより17%、ノイズが複雑に混ざる場合はなんと56%も精度が向上するという結果が得られました。
現実に近いfMRIシミュレーション
次に、BrainIAKというツールを使って、実際の脳データに近い環境でDeepCorを使ってみました。
実験データから抽出したノイズパラメータを用いて、生理的ノイズ、ドリフトノイズ、自己回帰ノイズ、タスクノイズなどを含む現実的なノイズを生成しました。
ここでは、CompCorと比べて402%も精度がアップしたという驚きの結果が得られました。
実データでの応用
最後は、本物のfMRIデータを使った検証です。
ABIDEデータセットから200人分のデータを使い、脳の「つながり(機能的結合)」を解析しました。
ノイズを除去することで、本来つながっているはずの領域間の結合がより明確に見えるようになりました。
特に、DeepCorを使った場合は、同じネットワーク内の領域間の結合と、異なるネットワーク間の結合の差が最も大きく、鮮やかに脳の構造が浮かび上がったのです。
なぜDeepCorが革新的なのか?
従来の方法は、「ノイズは線形的(単純に足し算)に混ざっている」と仮定していました。
しかし、現実のノイズはもっと複雑です。
DeepCorは、非線形なノイズの混ざり方にも対応できるため、より”現実の脳”に即した解析が可能になります。
さらに、DeepCorは、タスク中のfMRIでも、何もしていない「安静時」のfMRIでも、少人数のデータや個人レベルの解析でも使えるという柔軟性があります。
各ボクセル(脳の最小単位)をデータポイントとして扱うことで、比較的短いfMRIスキャンでも、個人ごとに独立してモデルを訓練できるのです。
これにより、個人の脳の違いを理解する個別化医療や精神疾患の研究にも応用が期待されています。
心に残る、ひとことまとめ
「雑音の向こうにある本当の声を聞ける技術、それがDeepCor」
fMRIの可能性をさらに一歩引き出すために、DeepCorは静かに、けれど確かなインパクトを与えています。
もしあなたがfMRIを使った研究に関わっていたり、脳科学に興味があるのなら、DeepCorという選択肢は、未来を少しだけ鮮明に見せてくれるはずです。
参考:DeepCor: denoising fMRI data with contrastive autoencoders
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