会計・IT業界に、AIが本格参入する時代
日々の業務に追われる会計事務所やIT企業。
データ入力、税務処理、システム保守といった作業は、正確さが求められる一方で、膨大な時間と人手がかかります。
「もっと効率的にできないだろうか」
「AIを導入したいが、どこから始めればいいのか」
多くの企業が同じ悩みを抱える中、OpenAIとThrive Holdingsが画期的な実験を始めています。
それは、AIツールを「試してみる」レベルではなく、企業を丸ごと買収して根本から作り変えるという、大胆な挑戦です。
Thrive Holdingsとは何か? OpenAIはなぜ出資するのか
Thrive Holdingsは、2025年初めに設立された投資持株会社です。
創設者はJoshua Kushner氏。
同氏はベンチャーキャピタルのThrive Capitalも運営しています。
この会社の目的は明確です。会計やITサービスといった伝統的な業界の企業を買収し、AIと最新のデータ活用手法で業務プロセスを刷新すること。
現在、Crete Professionals Alliance(会計)とShield Technology Partners(IT)という2社を傘下に収め、合わせて1,000人以上の従業員を抱えています。
Creteには5億ドル、Shieldには1億ドル以上(ZBS Partnersとの共同投資)を投じており、本気度がうかがえます。
そしてここにOpenAIが参入します。
OpenAIはThriveに出資するだけでなく、自社の専門家を現場に送り込み、実際の業務に合わせたAIモデルを開発していく計画です。
なぜ「買収して作り変える」のか
多くの企業がAI導入を試みていますが、その多くはパイロット版や概念実証で終わっています。
既存の業務プロセスの上にAIツールを載せるだけでは、本当の変革は起きにくいのです。
Thriveのアプローチは違います。企業を買収し、内部から業務の流れそのものを再設計する。
AIはその中核に組み込まれます。
たとえばCreteでは、すでにデータ入力や初期段階の税務作業にAIを活用し、ルーティン業務を削減し始めています。
Shieldは年内に10社の買収を完了予定で、これらのIT企業の運営方法を新しいツールと手法で再構築していく計画です。
この手法が効果的な理由は、会計やITといった業界の特性にあります。
これらの業界は作業量が多く、手作業が残り、利益率も厳しい。
さらに機密データを扱い、厳格な期限に追われます。
そこにAIを導入するには、業界特有の文脈を理解し、現場のプロセスに合わせた調整が不可欠なのです。
OpenAIが得るもの。5000億ドルの評価に見合う実績
OpenAIは現在、約5000億ドルの企業価値で評価されています。
そして2033年までに約1.4兆ドルのインフラ投資を計画しています。
これほどの規模を正当化するには、企業が実際に大金を払って使いたくなるような、実用性の高いAIモデルが必要です。
Thrive Holdingsへの出資により、OpenAIは自社だけでは得られない貴重なものを手に入れます。
それは、実際の業務現場でモデルを動かし、現場の専門家と協力しながら改善を重ねる機会です。
Thrive Holdingsでプロダクトと技術戦略を統括するパートナーのAnuj Mehndiratta氏によれば、OpenAIのチームは現場に入り込み、カスタムモデルを開発し、研究者やエンジニアを配置していくとのこと。
Thriveの企業が成長すればするほど、OpenAIの持分も拡大する可能性があると、関係者は述べています。
Joshua Kushner氏は次のように語っています。
「OpenAIとのパートナーシップを拡大し、彼らの最先端モデル、製品、サービスを、技術革新と導入によって大きな恩恵を受けると信じている業界に組み込んでいけることを嬉しく思います」
企業が学べること。AIは「外から導入」ではなく「内から構築」
多くの企業にとって、AI活用の最も難しい部分はモデルそのものではなく、既存の業務を再設計することです。
Thriveの戦略は、より深い統合へのシフトを示しています。
AIチームは外部のアドバイザーとしてではなく、サポートする事業部門の内部に座るのです。
このモデルは企業に次のような利点をもたらします。
抽象的なユースケースではなく、実際のワークフローに合わせたツールを構築できます。
管理された高品質なデータでモデルを訓練できます。
エンジニアリングチームと現場の従業員との間のギャップを減らせます。
そして、スタッフからの直接的なフィードバックを得ながら、変更を素早くテストできます。
同時に、AI導入の本当のコストも明らかになります。
カスタム開発には、エンジニアリングの時間、業界知識、そしてオーナーとモデル開発者の長期的な連携が必要です。
ThriveとOpenAIのパートナーシップは、この連携を正式なものにしており、デモンストレーションではなく実際の結果を求める企業にとって、今後より一般的になる可能性があります。
OpenAIのCOOであるBrad Lightcap氏は次のように述べています。
「Thrive Holdingsとのパートナーシップは、最先端のAI研究と展開が組織全体に迅速に導入され、企業の働き方や顧客との関わり方に革命をもたらす可能性を示すものです」
競争の中での位置づけ
この契約は、AI企業が大企業の中に足場を築こうとしている時期に実現しました。
AnthropicはMicrosoftとの提携を通じてより多くの企業にリーチしており、Googleは最新モデルで関心を集め、企業が新しいAI選択肢を探る中で市場価値を高めています。
一方OpenAIは、長期的なインフラニーズをサポートするため、AMDやCoreWeaveといったパートナーに出資しています。
OpenAIは今週月曜日にも、Accentureとの別の契約を発表し、事業範囲を拡大しました。
ChatGPT Enterpriseが「数万人」のAccenture従業員に展開され、OpenAIは大規模な企業利用への新たなルートを獲得しています。
今後の可能性。新しい変革の設計図となるか
もしThriveの企業が運営方法において意味のある改善を示せば、このモデルは他の企業がAI変革について考える方法に影響を与える可能性があります。
古いプロセスの上にツールを重ねるのではなく、モデルとビジネスの両方を理解する技術チームに導かれた、より深い再構築へと向かうかもしれません。
今のところ、Thrive Holdingsは、テクノロジーの見出しを飾ることは稀だが、日々のビジネス運営の根幹を成す業界に、このアプローチを適用した場合の生きた事例として機能しています。
参考:How OpenAI and Thrive are testing a new enterprise AI model
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