Spotify とレーベルが描く”アーティストファースト”の新時代
「あなたの”好き”は、機械にも伝わると思いますか?」
たとえば、雨がしとしと降る午後。
お気に入りのマグカップに温かい紅茶を注ぎながら、ふと流れてきた一曲に心がじんわりと温まったこと、ありませんか?
その瞬間、音楽はただの音の連なりではなく、感情そのものになるのです。
そんな「心を動かす音楽」が、今、AIとアーティストの手によって新たな形で生まれようとしています。
しかもそれは、ただのAIではありません。
“アーティストファースト”を掲げる、Spotify の新しい一歩です。
Spotify × 音楽レーベル:敵ではなく、共創のパートナーへ
2025 年10月16日、Spotify は大きな発表をしました。
Sony、Universal、Warner、Merlin などの大手レコード会社と連携し「責任あるAI」を使った音楽プロダクトの開発に乗り出すというのです。
AIと聞くと「人間の仕事が奪われる」とか「本物の音楽じゃない」と思ってしまう方もいるかもしれません。
ですが、今回の動きはまったく逆の方向です。
Spotify が目指しているのは、AIを”補助輪”にして、アーティスト自身の創造性をさらに引き出すこと。
たとえるなら、AIは名コーチのような存在。選手(アーティスト)の個性や感情を理解し、それをより遠くへ、深く届けるためのサポートをするのです。
AIがアーティストに”寄り添う”時代へ
今回の取り組みが画期的なのは「アーティストの声」や「スタイル」をAIが模倣するのではなく、本人の監修のもとで共創するという点です。
例えば、あるアーティストが「ファンに新しい音の体験を届けたい」と思ったとき、AIがそのアイデアを拡張してくれます。
まるで、作詞作曲に迷ったときに「こんな方向性もあるよ」とそっと耳打ちしてくれる頼れる相棒のような存在です。
Spotify は、こうしたAIツールを「Artist-first(アーティスト・ファースト)」と名付けました。
つまり、主役はあくまで人間。
テクノロジーは、それを輝かせる舞台装置に過ぎないのです。
リスナーにも嬉しい進化:音楽の”発見体験”がもっと豊かに
もちろん、私たちリスナーにもこの取り組みは大きなメリットがあります。
Spotify がこれまで蓄積してきた膨大なユーザーデータや音楽解析技術を活かすことで「今の気分にぴったりな新しい音楽」と出会える機会がさらに広がるのです。
たとえば「今夜はなんだか切ない気分」というときに、AIがあなたの心を読むように、まだ出会っていないけどきっと好きになれる一曲をそっと届けてくれます。
そんな音楽体験が、これからの”当たり前”になっていくのかもしれません。
著作権や倫理の課題も:でも、議論があるからこそ進化がある
もちろん、AIと音楽の融合には慎重な議論も必要です。
Spotify は今回、アーティストの許可なしに声やスタイルを使わないことを明言しています。
これは、音楽が「感情と人格の表現」であるという本質を守るための重要な一歩です。
倫理、著作権、表現の自由――これらのバランスをどう取っていくか。
それはこれからの音楽業界全体の課題でもあります。
終わりに:「機械の音」ではなく「人の心を映す音」を
音楽とは、不思議な力を持っています。
言葉にできない気持ちを伝えてくれたり、孤独な夜に寄り添ってくれたり、時には人生を変えてしまうほどの力を持っていたり。
Spotify が今回始めたこの取り組みは「機械が作った音」ではなく「人の想いをAIで広げる音楽」を目指す旅の始まりです。
きっとこれから、私たちはもっと多くの”心に残る音楽”と出会えるようになるでしょう。
そしてその背景には、アーティストとAIが手を取り合って生み出した、新しい音楽のかたちがあるのです。
参考:Spotify partners with record labels to create ‘artist-first’ AI music products
 
 
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