昔、祖母のピアノから聞こえた懐かしいメロディ
幼いころ、祖母の家に行くたびに聞こえてきた、美しいピアノの旋律。
その音楽に心を奪われていましたが、楽譜は読めませんでした。
「あの曲を自分でも弾いてみたい」
「でも楽譜がない」
「耳で覚えるには難しすぎる」
—そんな経験をした人は多いのではないでしょうか。
もし、聞こえる音楽を瞬時に楽譜に変えてくれる技術があったなら、音楽との付き合い方はもっと自由になるかもしれません。
2025 年、そんな夢を現実にするサービスが登場しました。
「音楽転写のAI」——Songscription の革新
音声ファイルをアップロードするだけで、数分以内に楽譜を自動生成してくれる。
それが、今注目を集めるSongscription(ソングスクリプション)のサービスです。
スタンフォード大学 MBA/教育学修士課程に在籍するアンドリュー・カーリンズ CEO が立ち上げたこの小さな会社は「音から楽譜への自動変換」という、これまで音楽家が手作業で行っていた作業をAIで効率化します。
「音楽をもっと楽しめるようにしたい」とカーリンズ氏は語ります。
「ネブラスカ州の田舎の高校の吹奏楽部の先生が、生徒たちが演奏したい曲の楽譜を手に入れられ、それぞれの楽器や個々の演奏レベルに合わせて編曲された楽譜が提供される未来を想像しています」
仕組みはどうなってるの? 音を”読む”AI技術
Songscription のAIは、音声ファイルを解析して自動的に楽譜を生成します。
現在、複数の楽器に対応していますが、ピアノモデルが最も信頼性が高いとされています。
技術的基盤は、共同創設者のティム・ベイヤー氏が研究者アンジェラ・ダイ氏と共同で発表した論文に基づいています。
訓練データには、協力してくれた音楽家からの演奏と楽譜、パブリックドメインの楽譜、そして合成データを使用。
合成データでは、楽譜を音声に変換した後、背景ノイズやリバーブを加えて実際の録音条件をシミュレートしています。
誰のための技術?——音楽制作がもっと身近になる
このサービスは、プロとアマチュア両方の音楽家を対象としています。
音楽制作者にとっては、自分で録音した楽曲をアップロードして楽譜を生成できるため、手動での楽譜作成作業を大幅に短縮できます。
楽譜が読めない人にとっても朗報です。
Songscription は楽譜だけでなく、バーチャルピアノで演奏される音楽のデジタル表示である「ピアノロール」も生成してくれます。
さらに興味深いのは、YouTube リンクから直接音楽転写ができる機能。
ただし、ファイルアップロード時には転写する権利があることを確認するチェックボックスがありますが、実際には著作権のある楽曲でも簡単に楽譜を生成できてしまう可能性があります。
著作権の問題は?——グレーゾーンへの挑戦
カーリンズ氏は法的な問題について「音楽学習者にとって、楽曲を聴いて耳で音符を書き取り、自宅のピアノで演奏することは(演奏で料金を取らない限り)許可されているため、技術支援プラットフォームを使ってその作業を効率化することが法的境界を越えるかは完全には明確ではありません」と述べています。
ただし、この分野は発展途上であり、グレーゾーンに入る可能性があることも認識しているとしています。
Songscription は新しいAI生成音楽を作るのではなく、音楽家が独自のギタータブや楽譜を作成するプロセスを高速化するツールを提供しているという立場です。
将来への展望——音楽転写の未来
現在はフリーミアムモデルで運営されている Songscription ですが、将来的にはギタータブなどの異なる転写出力や、単一楽器ではなくフルバンド編成での編曲機能の追加を予定しています。
設立からわずか7か月で、同社は Reach Capital からプレシード資金を調達し、スタンフォード大学の StartX アクセラレータープログラムにも参加しています。
まとめ:音楽創作の新しい扉が開く
Songscription がもたらすのは、音楽転写の民主化です。
これまで専門的な技術が必要だった「音を楽譜にする」作業が、誰でも数分でできるようになる。
それは、音楽を”特別な技術を持つ人だけのもの”ではなく”すべての人が創作に参加できる世界”へと変えていく力です。
あなたのスマートフォンに録音されている鼻歌や、YouTube で見つけたお気に入りの演奏にも、楽譜という新しい形で命を吹き込むことができます。
そして今、その魔法の杖は、あなたの手の中にあります。
🎵 最後に一言: 「聞こえる音楽」から「見える音楽」へ。音楽の可能性が、また一つ広がっていく。
参考:Songscription launches an AI-powered ‘Shazam for sheet music’
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